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吐血・下血・血便[私の治療]

No.5062 (2021年05月01日発行) P.43

武田宗和 (東京女子医科大学病院救命救急センター臨床教授)

登録日: 2021-04-30

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  • 吐血・下血によるショック状態では,最優先事項は循環動態の安定化であるが,嘔吐による誤嚥や意識障害に伴う舌根沈下がみられた場合,気道や呼吸状態の安定化を図るために気管挿管を考慮する。
    なお,本稿では下血は「タール便を含む黒(暗赤)色便」,血便は「赤い血液や粘液と血液が混ざった赤色調の便」と定義する。また,具体的な止血方法(手技)の詳細は他書を参照されたい。

    ▶病歴聴取のポイント

    吐血・下血をきたす疾患は多い。出血源,病因・病態の推定のため,いつ,何をしていて吐血・下血したかを含めて以下を聴取する(以下,→が示す疾患は可能性の高いもの)。

    ①既往歴(消化管疾患の既往,治療中・治療後の疾患,肝硬変→胃食道静脈瘤)

    ②薬剤服用歴(非ステロイド性抗炎症薬→消化性潰瘍,抗菌薬→薬剤性腸炎,抗凝固薬・抗血小板薬・出血性素因→時に大腸憩室出血)

    ③放射線治療歴

    ④海外渡航歴(→アメーバ腸炎)

    ⑤腹痛・下痢・発熱(→虚血性腸炎,炎症性腸疾患,感染性腸炎)

    ⑥出血の性状〔色調→後述,硬便→裂肛,回数(頻回の嘔吐後→マロリー・ワイス症候群),発症形態(急性→動静脈奇形,静脈瘤破裂,慢性→大腸癌)〕

    ▶バイタルサイン・身体診察のポイント

    心電図とSpO2モニターを装着し,意識レベル,気道・呼吸状態,脈拍・血圧を評価し,まず,ショックの有無を判断する。ショックと判断したら緊急時の処置を優先する。

    直腸指診では下血・血便の性状と直腸・肛門部病変をみる。黄疸,くも状血管腫,手掌紅斑,腹水,腹部膨隆も原因疾患を類推するには有意である。

    出血の性状により出血部位を推定する。

    吐血:上部消化管からの出血であり,新鮮血なら食道病変や胃内の停留時間が短い大量出血,コーヒー残渣様なら胃内でヘモグロビン(Hb)が胃酸の作用で塩酸ヘマチンに変化したものと考える。

    下血:黒色便なら一般に出血源は上部消化管と小腸であることが多い。暗赤色ならば右側結腸,鮮血ならば左側結腸~直腸および肛門からの出血を考慮する。

    血便:ほぼ大腸である。

    色調・性状は,いずれも血液の消化管内停滞時間の影響を受けることを考慮する。

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