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【識者の眼】「COVID-19後遺症の陰に慢性上咽頭炎」堀田 修

No.5065 (2021年05月22日発行) P.57

堀田 修 (認定NPO法人日本病巣疾患研究会理事長)

登録日: 2021-04-26

最終更新日: 2021-04-26

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PCRで新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が検出されなくなった後も体調不良が数カ月以上残る患者の存在が世界的に認識されるようになった。症状は倦怠感、慢性咳嗽、頭痛、気分の変動、集中力低下、うつ、不安、幻覚、胸の痛み、呼吸困難、動悸、息切れ、味覚・嗅覚の消失、耳鳴り、眩暈、しびれ、胃腸の不調、食欲不振、湿疹など多岐にわたる。

これらの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)後遺症は、これまでlong COVID、long-haul COVID、post-COVID syndromeなどと呼ばれてきたが、その重要性を反映して2021年2月に米国NIHがpost-acute sequelae of SARS-CoV-2 infection(PASC)と呼ぶこと、ならびにその原因を特定し、予防と治療法を解明するためのプロジェクトの開始を発表した。ウイルス感染をきっかけに疲労感が持続する病態は以前よりウイルス感染後疲労症候群(PVFS)として知られており、PASCはPVFSの類似病態と考えられる。

重症肺炎に陥った患者がその後も息切れや呼吸困難を感じるのは肺に器質的障害が残ったことで説明可能だが、軽症COVID-19患者もこうした様々な症状が認められるのはなぜか?

PCR検体採取部位でもある上咽頭の急性炎症は季節性コロナ感染症では必発であり、COVID-19においても同様である。上咽頭粘膜下のうっ血は急性上咽頭炎の特徴の一つだが、ウイルス消失後もうっ血が残存する病態が慢性上咽頭炎である。上咽頭の慢性的なうっ血状態である慢性上咽頭炎が自律神経障害をはじめとする脳機能に影響を及ぼすことは1960年代に既に日本の耳鼻咽喉科医により報告されていたが1)2)、医学界での注目度は低く、「慢性上咽頭炎」という用語は現在も一般の医学書には記載されていない。上咽頭は脳からの老廃物がリンパ管を通って深頸部リンパ節に向かうリンパ路の要所で、同部位のうっ血は通過障害を来し、その結果として脳の機能異常を生じることが機序として想定されている。治療は塩化亜鉛溶液に浸けた綿棒で上咽頭を擦過する上咽頭擦過療法(EAT)である3)

まだ症例数は少ないが筆者を含め、PASC患者を診療した日本病巣疾患研究会の医師らによれば、これまでのところ例外なく激しい慢性上咽頭炎が確認されており、PASC患者において慢性上咽頭炎が存在する頻度は少なくないことが推察される。慢性上咽頭炎はEATで改善しうる病態であるため、慢性上咽頭炎が存在するPASC患者において、安価で簡便なEATを積極的に試みる価値は高いと思われる。

EATの実施施設に関しては日本病巣疾患研究会HPのEAT実施施設一覧(https://jfir.jp/news/eat_hospital/)を参照されたい。

【文献】

1)山崎春三:耳鼻咽喉科. 1961;33:97-101.

2)堀口申作:日耳鼻会報. 1966;(補1):1-82.

3堀田 修, 他:日本医事新報. 2020;5007:30-6.

堀田 修(認定NPO法人日本病巣疾患研究会理事長)[新型コロナウイルス感染症]

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