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【識者の眼】「COVID-19の流行で再燃した、東日本大震災のPTSD」堀 有伸

No.5055 (2021年03月13日発行) P.59

堀 有伸 (ほりメンタルクリニック院長)

登録日: 2021-03-03

最終更新日: 2021-03-03

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私は2011年の東日本大震災・原発事故の被災地である福島県南相馬市で、メンタルクリニックを開業している精神科医です。当院を受診される患者さんの中で、なかなか治りにくいままで数年が経過した、抑うつを主訴とする患者さんがおられました。その方は震災時に地元から避難しなかったのですが、その時の恐怖を診察室で語ることはほとんどありませんでした。

2020年4月、この地域でも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者が報告され、地域の緊張感が一気に高まりました。それを誘因として当該の患者さんが強い不眠と恐怖を訴えるようになりました。心的外傷後ストレス障害(PTSD)の再燃です。それまでその患者さんのPTSDを見逃していたことに、ようやく気が付きました。この経過については、ご本人の同意を得てCase Reports in Psychiatryという雑誌に報告いたしました1)

ご本人のお話では、COVID-19の脅威が強まる中で、テレビで感染症の恐怖がくり返し報道されていたこと、地域の広報で行動制限が何回も呼びかけられていたことが、再燃のきっかけでした。このことから、二つの教訓を導きだすことができます。

一つは、災害後にPTSDの症状が出現したとしても、それを自発的に訴えない方々がおられるということです。トラウマになった出来事を夢に見て、その記憶がフラッシュバックしたとしても、災害後の被災者の場合には「みんな我慢している」と考えてしまうことが少なくありません。あるいは、「恐怖を感じた」と公言することを、恥ずかしく感じる場合もあります。

もう一つ、「町の緊迫した雰囲気」が、この患者さんにとってのトラウマ刺激となったことです。「COVID-19が発生している時の地域の雰囲気」から、「放射線被ばくの脅威を感じている時の地域の雰囲気」が思い出されました。災害やそれに類する出来事の報道には難しい面があることは承知していますが、このような事例に接すると、あまりに恐怖を煽るような方法は望ましくないだろうと感じます。

私たち精神医療の側からは、PTSDについての知見をさらに深め、社会に伝えていくことが重要だと考えています。

【文献】

1)Hori A, et al:Case Rep Psychiatry. 2021 Feb 10;2021:6699775. doi:10.1155/2021/6699775.

堀 有伸(ほりメンタルクリニック院長)[東日本大震災]

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