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「タイの地方の医療から見た日本の医療」 [長尾和宏の町医者で行こう!(61)]

No.4803 (2016年05月14日発行) P.16

長尾和宏 (長尾クリニック)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-01-24

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  • 日本とタイの医療・仏教交流 

    日本とタイは共に長い歴史を持つ仏教国である。今回、トヨタ財団のプロジェクトとして始まった両国の医療者と仏教者の交流についてご紹介したい。日本とタイの高齢者医療、特に認知症ケアへの取り組みを学びあうことが目的である。

    第一陣として今年2月11~14日、僧侶の釈徹宗さん、兵庫県西宮市のNPO法人つどい場さくらちゃんの丸尾多重子さんらと共にタイを訪問。日本から数時間でバンコクに、そこから1時間ほど飛び、タイ東北部にあるコーンケン県に着いた。コーンケン国際空港から車でさらに1時間ほど北上し、ラオス国境に近い人口200人ほどの小さな村に到着。中心にあるお寺にお邪魔して、住人たちの生活に密着させていただいた。

    村人の日常生活は正にお寺と一体であった。タイの僧侶は日本と違い、妻帯や飲酒の禁止をはじめ200ものとても厳しい戒律に縛られている。托鉢後の朝食に続き、昼食は正午までに終了しなければならず、その後は翌朝まで水以外口にすることができない。つまり、毎日17時間くらいの断食を一生続ける。脳の主なエネルギー源はケトン体。住民たちは皆、そんな僧侶たちを心から尊敬していた。

    村人たちの家々を訪問すると、寝たきりの高齢者を家族が介護していた。そこには在宅医療も介護保険もなければ、介護という言葉さえなかった。日本と同様、糖尿病と高血圧の人が多いのは、おそらく主食である白飯・もち米の食べ過ぎや、漬けものの塩分の過剰摂取が原因であろう。肉や魚は高価である。糖尿病性壊疽のため足を切断した人や、脳卒中で半身不随の人が何人かいたが、皆インスリンを打っていた。

    実は、「タイには認知症という言葉がない」と聞いていた。それを確かめるのも今回の訪問の目的のひとつだった。村には認知症らしき高齢者が何人かいたが、確かに認知症という言葉は村人の中にはなかった。歳をとれば当たり前のこと、脳の機能低下を老いとして受け止めていた。ただ、コーンケン大学病院の医師に聞くと、「脳が壊れる」という意味のタイ語はある。しかし、市民は使わないとのことであった。そういえば日本においても、十数年前まで認知症は「ボケ」であった。

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