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【識者の眼】「日本の皆保険制度を維持するために(1)造血器腫瘍領域の現状」神田善伸

神田善伸 (自治医科大学附属病院血液科教授)

登録日: 2021-01-20

最終更新日: 2021-01-20

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新規治療薬の開発によって様々な悪性腫瘍の予後が改善した。代表的な疾患は慢性骨髄性白血病である。かつては造血幹細胞移植が唯一の根治的治療であった疾患が、現在はチロシンキナーゼ阻害薬を内服するだけで寛解状態を維持できるようになった。一方で、新規治療薬の価格が問題となっている。

例えば、免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブは、白金製剤抵抗性の非扁平上皮・非小細胞肺癌患者における無作為割付比較試験でドセタキセルと比較して、1年生存率が51% vs. 39%と有意に優れることが示された薬剤である。一部の患者さんに免疫関連の有害事象が見られたが、全体としては有害事象もニボルマブ群で少なく、安全性、有効性ともに優れている。しかし、2014年に悪性黒色腫に承認後、15年の肺癌への適応拡大によって同薬の対象患者は著しく増加するとともに、当時の肺癌に対するニボルマブの1年間の薬価は約3500万円と高額であり、医療保険財政への影響の懸念から、急速な薬価引き下げが行われた。造血器腫瘍領域では、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)や急性リンパ球性白血病の治療として2019年に承認されたキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法は、1回の投与だけで3350万円という薬価が設定された。化学療法が奏効しない難治性腫瘍に対する有効性が報告されているが、DLBCLについては、再発・難治性という規定だけで、年齢制限などの縛りはない。また、移植非適応(概ね70歳以上)の骨髄腫に対する初期治療薬として、日本血液学会のガイドラインではCD38モノクローナル抗体のダラツムマブを含む治療法が推奨されているが、例えば推奨通りにD-Ld療法を継続すると、体重60kgとして、ダラツムマブとレナリドミドだけで最初の1年間に2000万円以上、翌年以降も年間約1700万円の薬価がかかる。

幸い、国民皆保険制度と高額療養費制度が整っている日本では患者自己負担額は一定の金額以内に抑制されるので(それでも高額だが)、高額医療であることを理由に治療を断念しなければならないという場面は必ずしも多くはない。しかし、残りの費用は日本国民の誰か(主に現役世代の人々)が間接的に支払っているはずである。はたして、このような制度を今後も長年にわたって維持出来るのだろうか? このシリーズでは、医療政策に疎い一介の血液内科医として、この問題について考えていきたいと思う。

神田善伸(自治医科大学附属病院血液科教授)[新規治療薬]

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