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【識者の眼】「SARS-CoV-2核酸ワクチンの期待と懸念」倉原 優

No.5047 (2021年01月16日発行) P.56

倉原 優 (国立病院機構近畿中央呼吸器センター内科)

登録日: 2021-01-05

最終更新日: 2021-01-05

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新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する核酸ワクチンが国内でも接種される見込みである。医療従事者に対しては2月下旬、一般向けにはそれより後に接種される見通しだ。これまでのワクチンとはまったく異なる核酸ワクチンで、一気に開発が加速したことは驚愕に値する。

16歳以上の約4万3000人がランダム化された、ファイザーとBioNTechのワクチンBNT162b2の第3相試験では、SARS-CoV-2感染の既往がない被験者約3万6000人のうち、2回目の接種から少なくとも7日以降に発症した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)症例を見た時、有効率が95.0%(95%信頼区間90.3〜97.6%)であることが分かった1)

イギリスでは、ワクチン接種共同委員会によって優先接種順位が定められている。優先度が高いのは、介護施設入所中の高齢者ならびにその介護者、80歳以上の高齢者、医療・介護従事者である。日本においても、優先接種対象者は、65歳以上の高齢者や、基礎疾患がある患者(慢性呼吸器疾患、慢性心疾患、糖尿病、免疫抑制状態など)という提言が日本感染症学会から出ている2)

多くの接種者が一時的な接種部位疼痛、頭痛、倦怠感などの副反応を経験しているが、これが長期にわたって影響を及ぼすことはまずない。自然に軽快するものであるため、副反応については「注視はするが過敏にならない」スタンスが重要だ。私が懸念しているのは、ワクチンとの因果関係は不明であるものの接種後に死亡例が出た場合、日本での接種はおそらくストップしてしまうことである。SNSでは、あたかもそれを待っているかのようなワクチンに忌避的なインフルエンサーがたくさんいる。

収束が可能かどうかはワクチンを先行接種している欧米をみてみないと分からないが、新規感染者が今よりも9割以上減るのであれば、かなり期待できると言えよう。また、これほどたくさんの人類が同時期に接種するというのは歴史上初めての試みではないだろうか。

しかし、これでもCOVID-19を完全にゼロにすることはできない。ウィズコロナはおそらく約束されているので、基本的な感染対策は続ける必要があるのだ。

【文献】

1)Polack FP, et al:N Engl J Med. 2020;383(27):2603-15. 

2)一般社団法人日本感染症学会 ワクチン委員会 COVID-19 ワクチンに関する提言(第1版).

  [https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/2012_covid_vaccine.pdf]

倉原 優(国立病院機構近畿中央呼吸器センター内科)[医療SNS]

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