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分娩後異常出血[私の治療]

No.5044 (2020年12月26日発行) P.45

松島実穂 (杏林大学医学部産科婦人科学教室)

谷垣伸治 (杏林大学医学部産科婦人科学教室教授)

登録日: 2020-12-28

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  • 分娩に引き続いて起こる多量出血である。妊産婦死亡の主要な原因のひとつである。原因は様々であるが,時に分単位で変化する母体の状態に遅滞なく対応するためには,特に初期対応が重要である。また,重症化を防ぐためには,高次施設への搬送を常に念頭に置いて治療にあたることが求められる。
    全国周産期登録例における分娩時出血量の90パーセンタイル値は,単胎経腟分娩で800g,多胎経腟分娩で1600g,単胎帝王切開で1500g,多胎帝王切開で2300g以上とされる。産後出血量が,経腟分娩で500mL,帝王切開で1500mLを超えた場合は産後多量出血を疑い,初期治療を開始する。原因は,弛緩出血,前置胎盤,癒着胎盤,子宮内反症,羊水塞栓症,子宮筋腫,羊水過多,多胎,頸管裂傷など,多岐にわたる。全身管理を行いながら原因の特定に努め,多量出血に対しては「産科危機的出血への対応フローチャート」を参考に,躊躇なく輸血を開始し,高次施設への搬送を決定することが重要である。

    ▶診断のポイント

    分娩時の出血は,羊水も含まれることやシートへの漏出,時に骨盤腔内や腟壁内への出血などが起こりうること,計測に人手と手間を要する上に不正確であることから,リアルタイムに評価をすることが困難である。そのために参考にされるのが,shock index(SI:脈拍数÷収縮期血圧)である。出血量はSI値と同等とされる。SI 1以上の場合は分娩時異常出血として,速やかに後述の対応を開始する。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    まず産後異常出血の予防には,分娩第3期の積極的管理(子宮収縮薬投与,子宮底マッサージ,適切な臍帯牽引による胎盤娩出)が基本である。分娩第3期の遷延は,出血を増加させるためである。経腟分娩で出血が500mLを超える場合に直ちに行うべきことは,何よりも人手の確保である。産科医師はコマンダーとなって患者から離れることなくスタッフに指示し,モニターの装着,複数の血管確保と人工膠質液の輸液,酸素投与,尿道バルーン留置を同時に進める。そして,出血原因の検索を行い,原因がわかる場合はそれに対応した治療を行う。

    原因として4T(tone, trauma, tissue, thrombin)を念頭に確認していく。子宮収縮不良(tone)に対しては子宮収縮薬投与や双手圧迫を,頸管や腟壁の裂傷(trauma)があれば縫合止血を行い,胎盤遺残(tissue)を認める場合は遺残組織の娩出,非凝固性の出血(thrombin)の場合には凝固障害を疑い輸血の準備と血液検査を行う。原因に対する治療を行っても出血が持続し,バイタルサインの異常を認める場合には,一次・二次施設においては速やかに高次施設への搬送を考慮する。

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