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【識者の眼】「精神科と介護施設におけるPCR陰性の意味」平川淳一

No.5040 (2020年11月28日発行) P.52

平川淳一 (平川病院院長、東京精神科病院協会会長)

登録日: 2020-11-19

最終更新日: 2020-11-19

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今、精神科の救急入院現場でもPCR検査をするようになってきている。措置入院に至る経過で新型コロナウイルスに感染した事例や、入院して身体的な容態悪化で総合病院に転送したところ新型コロナウイルス感染症(COVID-19)だった、ということもあった。

11月中旬になり、感染爆発の様相を呈し、何時、誰が発症してもおかしくない状況になってきた。当院のある東京都八王子市では、地域中核病院である東京医大八王子医療センター救命救急センターの新井隆男先生が中心となり、COVID-19WEB会議を半年以上前から開催している。ここには、医師会、保健所、救急病院、慢性期病院、精神科病院、在宅専門診療所、介護施設、学校などが参加し、さまざまな視点で情報を共有し、木曜の夜には200人規模のWEB講習会を毎週のように開催して、地域のコンセンサスを形成している。

この会議の中で、救急病院と、我々、精神科病院や介護施設関連のPCR検査に対する認識に大きな溝があることに気が付いた。救急の先生たちのPCR検査の目的は、陽性者を見つけ治療を行うことであり、PCR陰性は偽陰性の可能性があり要注意であると考える。一方、精神科病院や施設側は、陰性結果を期待して検査を行い、陰性であればほっと胸を撫でおろす。逆に言えば、救急の視点では、我々の考え方は無意味なのである。

ここにきて、東京都では、介護施設でのPCR検査に補助金を出して、積極的にPCR検査をするような仕組みになった。東京都はPCR検査を多くして、早急に陽性者を見つけ隔離することで感染拡大を予防しようという考え方のようであるが、(陰性を期待する)検査数が増加すれば陽性者も当然見つかるわけで、そうなれば、施設運営に多大な影響が出ることは必然である。陽性者はもちろん、要介護者が濃厚接触者となり14日の健康観察となった場合、どうするのか、認知症が絡むとどうなるのか。環境変化は、高齢者にとっては健康への影響が大きく、介護の仕方、食事、室温、寝具など、命を奪う可能性もある。さらに転院先が満床になれば、施設内で新型コロナ患者を、場合によっては重症者も看なければならなくなる。

COVID-19は、マスクをして、ソーシャルディスタンスを守り、通常の標準予防策を徹底し、手指消毒、手袋などをきちんとしていれば感染はしないというのが八王子市のコンセンサスである。感染症を正しく理解し正しく対応することで新型コロナに感染したスタッフでも仕事ができるようにしないと、地域の仕組みが崩壊する可能性が高いと私は思う。

平川淳一(平川病院院長、東京精神科病院協会会長)[新型コロナウイルス感染症]

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