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複視[私の治療]

No.5038 (2020年11月14日発行) P.47

中馬秀樹 (宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科科学分野准教授)

登録日: 2020-11-17

最終更新日: 2020-11-11

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  • 複視とは,ものがだぶって見えることである。複視には,単眼性のものと両眼性のものがある。単眼性複視は,眼球自体に原因があることを意味し,両眼性複視は,眼位に異常がある(視線がずれている)ことを意味する。

    単眼性複視の,眼球自体の原因のうち,屈折異常の矯正不良は,網膜にきちんと結像せず,収差が残った状態で結像するため,輪郭がだぶって見える。角膜疾患や白内障でも,濁った角膜や水晶体により光が乱反射され,網膜にきちんと結像されないためにだぶって見える。

    両眼性複視の,眼位に異常をきたす(視線がずれる)のは,両眼で12個ある外眼筋自体,神経筋接合部,支配神経のうちの1つ以上に異常(多くは収縮障害)が生ずるためである。

    ▶診断のポイント

    まず行うべきことは,単眼性の複視か,両眼性の複視かの鑑別である。①病歴で,片目を閉じると1つに見えるか,閉じてもだぶって見えるか,②診察で実際に隠してみて,1つに見えるか,だぶって見えるか,③ピンホールを用いて単眼複視が消失するかどうか,を確認する。

    【単眼性の複視】

    ピンホールで複視が消失すれば,原因は眼球自体にある(未矯正屈折異常,白内障など)。ピンホールで消失しなければ,原因は大脳にある(大脳性多視症,視覚保続,心因性など)可能性がある。

    【両眼性の複視】

    外眼筋自体,神経筋接合部,支配神経のうちの1つ以上に異常(多くは収縮障害)があるかどうかを確認する。具体的には,発症頻度の高い,甲状腺眼症,重症筋無力症,滑車神経麻痺,外転神経麻痺,動眼神経麻痺の有無を検索する。まず,眼瞼の観察が重要である。動眼神経麻痺では眼瞼下垂を生ずる。一方,甲状腺眼症では眼瞼挙上となる。正面視ではわからなくても,下転させると判別しやすい。甲状腺眼症に特徴的な眼球突出の有無も観察すべきで,上方から見るとよりわかりやすい。瞳孔不同の有無の観察も重要である。動眼神経麻痺では片側の瞳孔が散大しており,対光反射は減弱する。


    眼球運動をみるには水平,垂直上下方向に検者の指の動きを追ってもらう。外転,内転の正常は白目が見えなくなるまで動くこと,上下転の正常は内外眼角を結ぶ線を角膜縁が超えればよい。ポイントは,左右で比較することである。外転神経麻痺では外転制限がみられ,動眼神経麻痺では,上記の眼瞼下垂,瞳孔散大に加え,内転・上転・下転制限となる。甲状腺眼症では上転制限が多い。滑車神経麻痺では,眼球運動は正常にみえる。極論を言えば,上下の複視を自覚した患者の眼球運動が正常であれば,まず滑車神経麻痺を考えればよい。滑車神経麻痺の正確な診断は,一般医師には非常に難しい。

    眼筋型重症筋無力症を疑う症状,徴候は,独特である。眼球運動は上記のいずれも生じうる。複視が一定せず日によって変化する,複視が有意に夜間や疲労時に悪化する,などの病歴に加え,眼瞼下垂,または上方視を2分間継続させて悪化する眼瞼下垂,閉瞼力の低下,顔面筋の筋力低下,lid twitch sign,enhanced ptosis,アイステスト陽性,テンシロンテスト陽性などが診断に必要となる。

    加えて,全例に神経眼科スクリーニング検査〔視力,瞳孔不同の有無,対光反射,RAPD,視野(対座法なら時間はかからない),眼球運動,眼位,外眼部,細隙灯顕微鏡検査,眼底検査〕が必要である。

    以下の複合麻痺では病変部が特異的であるため,画像診断を行う。
    ・外転神経麻痺+同側のHorner症候群=海面静脈洞病変
    ・複合神経麻痺(外転・動眼・滑車)+同側RAPD陽性=眼窩先端部病変
    ・外転神経麻痺+乳頭浮腫=頭蓋内圧亢進
    ・滑車神経麻痺+Horner症候群=脳幹部(中脳)病変
    ・滑車神経麻痺+RAPD陽性=脳幹部(中脳)病変
    ・外転神経麻痺+顔面神経麻痺=脳幹部(橋)病変
    ・複合神経麻痺(外転・動眼・滑車)+両耳側半盲(+頭痛)=下垂体病変(卒中)
    ・動眼神経麻痺+同側のRAPD陽性=蝶形骨髄膜腫,脳動脈瘤
    ・複合神経麻痺+一人で歩けない,ふらふら=Fisher症候群かWernicke脳症
    単独の成人の動眼神経麻痺では,脳動脈瘤によるものを見逃さない。すぐに(その日のうちに)一度脳神経外科医に紹介する。小児の外転神経麻痺では,腫瘍によるものが多い。小児の非外傷性の外転神経麻痺には,すべての例にMRIを施行(ガドリニウム造影も)すべきである。

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