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【識者の眼】「外国人が医療にアクセスしやすくなるために」西村真紀

No.5037 (2020年11月07日発行) P.63

西村真紀 (川崎セツルメント診療所所長)

登録日: 2020-10-28

最終更新日: 2020-10-28

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第11回は、健康の社会的決定要因(social determinants of health:SDH)の、外国人医療の問題をお伝えします。

外国人医療の問題には大きく分けて言語と無保険の二つがあります。まず一つ目の言語の問題です。日本では医療通訳は専門職ではなく、その育成や採用は現場に任されており、ボランティアに頼らざるを得ないのが現状です。最近では音声翻訳アプリを使って簡単な会話はしやすくなりましたが、込み入った話をアプリで行うのには限界があります。英語を使える医療関係者は多いですが、日本に住んでいる外国人で英語を使える人は4割程度、一方で日本語を使える人は8割以上です。そこで注目されているのが「やさしい日本語」です。順天堂大学の武田裕子先生らが設立した“医療×「やさしい日本語」研究会”の活動が大変勉強になりますので、ぜひhttps://easy-japanese.infoをご覧ください。「やさしい日本語」は、外国人だけでなく高齢者や障害のある方や子どもにも使うとわかりやすい日本語として研究されており、文章を短く、尊敬語、謙譲語、「お」は避けて丁寧語を使い、擬音語、擬態語、カタカナ外来語を使わず、ジェスチャーも取り入れてわかりやすくします。例えば「血液をさらさらにするお薬を飲まれている場合、検査当日は休薬してください」→「血を固めないようにする薬を飲んでいますか?」「○月○日に(カレンダーを見せながら)その薬を飲んではだめです」のように表現します。

次に無保険で医療にかかりにくい外国人の方の問題です。彼らの健康相談を行う支援団体がいくつかあり、健康チェックを行ったり受診のサポートをしたりしています。健診を一度も受けていないという女性や子どもも多いそうです。さらに現在、コロナ禍で外国人労働者の失業が急増しています。在留資格がなくなり医療保険もないため、医療にアクセスできなくなっている外国人の方が多くいます。多くの外国人労働者は、母国ではない、就労、貧困、地域の絆、教育、食事などいくつものSDHが集積した環境で暮らしています。社会的に脆弱な彼らは、コロナ禍で真っ先に大きな被害を受けています。私たちは診察室から外に足を踏み出し、支援団体とともに活動したり情報を得たりする努力が必要です。まずは彼らの命を守りましょう。連載⑩で紹介した無料低額診療などを利用することができるかもしれません。セーフティネットからはみ出した外国人の方の命と人権を守るため、現場でできること、社会に向けてやるべきこと、私たち一人ひとりが考え行動することが重要です。

西村真紀(川崎セツルメント診療所所長)[SDH⑪外国人やさしい日本語外国人労働者

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