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歯性上顎洞炎[私の治療]

No.5035 (2020年10月24日発行) P.38

鴻 信義 (東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科教授)

登録日: 2020-10-22

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  • 歯科的疾患に起因する上顎洞炎で,頰部痛や膿性鼻汁などをきたす。齲歯(第2小臼歯,第1,2大臼歯など)による根尖病巣が原因として最も多い。歯周病,歯根囊胞の上顎洞内進展,根管治療薬による副次的な炎症,抜歯窩の穿孔やインプラント治療による上顎洞への穿孔,上顎洞内への異物迷入なども原因になる。診断と治療には歯科との連携が欠かせない。

    ▶診断のポイント

    副鼻腔炎症状と歯科的症状が併存する。痛みを伴いやすい。歯科治療歴や内容に関する問診が重要である。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    本疾患は歯科的疾患が原因となって生じるもので,上顎洞炎自体の重症度にかかわらず歯科へのコンサルトは欠かせない。齲歯が原因で抜歯や根幹治療,あるいはインプラント抜去が必要と判断されればそれに従う。歯科治療の時期は,上顎洞炎治療と同時でも前後しても構わない。歯科治療が既に完了していても,歯科での再診察を勧める。

    上顎洞炎に対しての治療は局所療法と薬物療法が中心で,これらの保存的治療を歯科治療と併せることで改善する症例が多い。保存的治療の柱はマクロライド系抗菌薬である。14員環マクロライド系抗菌薬を半量で,3カ月を目安として投与する。マクロライドの抗菌作用よりも,免疫調節作用,抗炎症作用,また粘液過剰分泌抑制作用に期待する。鼻漏や後鼻漏が持続するタイプの上顎洞炎で,特に効果が期待できる。また,症状が改善していったん投与を中止しても,病変再燃時には再投与で同様の効果が期待できる。

    上顎洞内の感染が強く膿性鼻汁排泄や頰部痛が顕著なときには,急性副鼻腔炎に対する抗菌薬投与に準じて,セフェム系やレスピラトリーキノロンを投与する。消炎酵素薬の併用も有効である。また,非ステロイド性抗炎症薬で疼痛を緩和する。アレルギー性鼻炎の合併があれば,鼻噴霧ステロイドや抗ヒスタミン薬を併用する。わが国では鼻噴霧ステロイドは副鼻腔炎に対する保険適用がないが,欧米では鼻茸に対する縮小効果が報告されている。

    上顎洞粘膜の浮腫・腫脹で狭窄した自然口に対する開大処置や吸入(ネブライザー),また下鼻道穿刺や自然口経由での上顎洞洗浄療法も有効である。ネブライザーに使用する吸入液には,抗菌薬およびステロイドが添加される。抗菌薬には副作用が少ないなどの利点により,アミノグリコシド系が汎用されている。

    保存的治療が無効であれば,手術療法〔内視鏡下鼻副鼻腔手術(ESS)〕を選択する。上顎洞膜様部を広く開放し,洞内の貯留液や病的粘膜を可及的に除去した後,十分に洗浄する。歯性上顎洞炎が上顎洞から篩骨洞や前頭洞へと進展している症例,また中鼻道が鼻茸や高度の粘膜腫脹により閉塞しているような症例では,ESSを積極的に検討する。また,上顎洞内異物が感染源となっている症例では,ESSでの摘出が優先される。

    治療上の注意点を以下に挙げる。
    ①局所治療は疼痛を伴いやすいため,患者の苦痛に配慮する。
    ②出血傾向がある患者では,自然口開大処置や洗浄療法などは慎重に行う。
    ③抗菌薬は適切に選択・投与し,耐性菌の発生を防ぐ。
    ④マクロライド系抗菌薬では,QT延長作用など心電図異常を生じうる薬剤の併用には注意する。
    ⑤各種薬剤に対するアレルギー既往がある患者では,投与を控える。
    ⑥手術療法が必要な重症例では,保存的治療で引っ張りすぎず適切な時期に手術を施行する。
    ⑦ESSは患者に低侵襲な手術であるが,副損傷も決して少なくない。慎重な手術操作が不可欠である。

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