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色覚異常[私の治療]

No.5034 (2020年10月17日発行) P.49

林 孝彰 (東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科准教授)

登録日: 2020-10-15

最終更新日: 2020-10-13

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  • ▶色覚について

    眼球の内側に半球状に広がるヒト網膜には,光受容細胞である視細胞が存在する。視細胞は,明るい環境下で働き主として色覚と形態覚を担当している錐体と,暗い環境下で働き光に感度の高い杆体に大別される。視細胞外節には視物質と呼ばれる光受容蛋白質が含まれているが,錐体には長波長(赤),中波長(緑),短波長(青)領域の光にそれぞれ感度の高い視物質を持つ3種類が存在し,それぞれL錐体,M錐体,S錐体と呼称されている。杆体に含まれる視物質は1種類であり,ロドプシンと呼ばれる。L視物質,M視物質,S視物質のアミノ酸配列の違いによって各視物質の最大吸収波長が決定されている。

    ▶色覚に関する遺伝子

    L視物質およびM視物質をコードする遺伝子(L,M遺伝子)はX染色体に存在し,L遺伝子の下流にM遺伝子が連結し,色覚正常男性ではL遺伝子1個に対し,M遺伝子は1~数コピー存在している。最も上流に位置するM遺伝子のみがM錐体で発現している。L遺伝子とM遺伝子の塩基配列の相同性は98%と高く,時にL遺伝子内とM遺伝子内で不均等交叉が起こり,L-M融合(L遺伝子内にM遺伝子を含む)遺伝子やM-L融合(M遺伝子内にL遺伝子を含む)遺伝子が形成される。L-M融合視物質の吸収波長特性はM視物質に近づき,M-L融合視物質の特性はL視物質に近づくことが証明されている。

    ▶病態・疾患の概要

    色覚異常は,先天色覚異常と後天色覚異常に大別される。

    【先天色覚異常】

    原因は,原因となる遺伝子の変化による。先天赤緑異常がそのほとんどを占め,日本人での頻度は男子5%,女子0.2%であり,300万人以上存在する。先天赤緑異常は,1型色覚と2型色覚にわかれ,1型色覚は1型2色覚と1型3色覚に,2型色覚は2型2色覚と2型3色覚に分類される。1型色覚の遺伝子配列では,L遺伝子がL-M融合遺伝子に置き換わり,L-M融合視物質がM視物質の吸収波長特性に近づき(1型3色覚),一致した場合1型2色覚となる。2型色覚の遺伝子配列では,M遺伝子がM-L融合遺伝子に置き換わり,M-L融合視物質がL視物質の吸収波長特性に近づき(2型3色覚),一致した場合2型2色覚となる。

    先天赤緑異常では,すべての色に対して色覚正常者とは異なる色として認識される。しかし,先天性であることから自覚することはなく,色誤認によって気づかれ眼科を受診することが多い。誤認しやすい配色として,赤と緑,青と紫,オレンジと黄緑,茶と緑,薄い色同士(ピンク,グレー,水色),赤と黒(1型色覚)がある。その他,稀ではあるが,先天青黄異常(3型色覚),青錐体1色覚,杆体1色覚が知られている。表に原因遺伝子と遺伝形式を示す。

    先天赤緑異常と先天青黄異常においては,視力や視野は正常である一方,杆体1色覚と青錐体1色覚では,生下時より低視力,羞明,眼振を示すことが多い。

    【後天色覚異常】

    先天色覚異常を除いたすべての色覚異常を指す。原因として,中間透光体(水晶体,硝子体),網膜,視神経,視神経から大脳皮質までの障害・疾患によって起こるが,白内障,網膜疾患,視神経疾患の頻度が高い。

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