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【識者の眼】「アジア共同で社会的課題を乗り越え、癌医療の均てん化を目指す」松田智大

No.5035 (2020年10月24日発行) P.55

松田智大 (国立がん研究センター企画戦略局国際戦略室長)

登録日: 2020-10-07

最終更新日: 2020-10-07

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ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)とは、2015年に国連サミットで採択された持続可能な開発目標(sustainable development goals:SDG)の3.8に位置付けられた概念でもあり、すべての人が、適切な健康増進、予防、治療、機能回復に関するサービスを、支払い可能な費用で受けられることを意味する。社会格差が生死に直結する癌の分野でもとりわけ重要なコンセプトであることから、日本でも、がん対策基本法において、癌医療の「均てん化」が中心的な施策となったことは記憶に新しい。世界保健機関(WHO)がUHCでの「不可欠な医療のカバー指標」として妊娠出産、新生児及び乳幼児、感染症及び非感染症の医療へのアクセスを総合して算出した数値では(https://www.who.int/data/gho/data/themes/universal-health-coverage)、日本、シンガポール、韓国、ブルネイにおいて80%(最高値)であるものの、バングラデシュ、ネパール、ラオス、インドネシアにおいては40%台であり、その差は大きい。

均てん化は、物理的、経済的、文化的な側面を考慮すべきである。我が国からの癌医療推進のための物理的、経済的な支援は、立法、行政を含め、持続可能な体制を構築し、地域の格差を解消する。アジア文化は、各国で異なるとはいうものの、主従関係の重視であったり、非言語的コミュニケーションであったりといった点はアジアに共通している。構築されたエビデンスを社会に実装する段階では、こうした文化的・社会慣習的側面が、癌予防や受療行動に与える影響は小さくない。例えば、乳癌検診、子宮頸癌検診に対する女性の抵抗感など、アジア共同で乗り越えられる課題が存在する。

アジア国立がんセンター協議会(ancca.asia)では、アジア全体の癌対策の発展の目標やマイルストーンを設定し、各国政府に提言するプロジェクトを開始した。各分野で視野が狭窄しがちだが、大きな視点に立ち返り、アジア社会で実現可能な癌医療を実現していきたい。

松田智大(国立がん研究センター企画戦略局国際戦略室長)[アジアの癌医療研究連携]

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