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【識者の眼】「ソーシャルキャピタルと健康(後編):ソーシャルキャピタルを育む取り組みと注意点」西村真紀

No.5030 (2020年09月19日発行) P.59

西村真紀 (川崎セツルメント診療所所長)

登録日: 2020-09-08

最終更新日: 2020-09-08

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第9回は、健康の社会的決定要因(social determinants of health:SDH)の中の一つ「ソーシャルキャピタル(以下、SC)」=「人々のつながり」「ネットワーク」「人間関係」「絆」後編をお届けします。

地域では様々なレベルでSCを強める活動が行われています。自治体レベルでは健康教室や集い、地域住民による「オレンジカフェ」「こども食堂」「暮らしの保健室」などが全国に広がっています。埼玉県幸手市の「幸手モデル」や福井県高浜町の「健高カフェ」など参考にすべき取り組みがたくさんあります。地域でSCを強めることは個人の健康を増進させる効果があることがわかっています。自治体、地域の自治会などが体操教室やレクリエーションの場を作ることで、参加人数よりも多くの人の運動機能低下が食い止められていたそうです。また情緒的サポートのある地域では認知症発症率が低いこともわかっています。このように地域レベルでの社会サポートがある地域に暮らす人々は、集まりに参加していなくてもその恩恵を受けています。SCの強い地域では、個人レベルに様々な情報が伝達され人々の関心を生むことで、個人の健康増進が生み出されていることが示唆されます。

一方SCが強すぎると負の側面も現れます。SCが強いと社会規範が強まり、人々は寛容性を失い、集団からはみ出した人を村八分にするなど、多様性を認めない窮屈な社会となる恐れがあります。実際にSCが強すぎて集団外の人の精神的健康が損なわれ、依存症などを引き起こした例が報告されています。人は不安があると同じ者同士で集まり慰め合ったり、また他を否定したりすることで安心して自分の精神状態を保とうとします。コロナ時代の今、まさにそのような人々の心理が規範的結束力となり、間違った連帯感を作り、同調圧力となって、風評被害や差別を生んでいるのです。

個性が発揮され、多様な意見が反映される集団の中にこそ新しいアイデアが生まれ、それが豊かな社会を築くことにもなります。健康格差をなくすためには柔軟なSCを育む必要がありますが、そのためには外に開かれた集団を作る工夫と、負の側面の危険性を常に意識しておくことが重要です。

西村真紀(川崎セツルメント診療所所長)[SDH⑨][ソーシャルキャピタル][負の側面]

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