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【識者の眼】「ファクターXは実在しない」岩田健太郎

No.5028 (2020年09月05日発行) P.57

岩田健太郎 (神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)

登録日: 2020-08-27

最終更新日: 2020-08-27

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の「第二波」が容赦なくやってきた。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は感染対策を緩めると、容赦なくその「緩いところ」を突いてくる。もちろん、そのことそのものは、大きな問題ではない。COVID-19は少数の感染者の場合、対策は難しくない。検査し、隔離し、濃厚接触者を突き止めて、そしてクラスターを制御するのである。

ところが、「第一波」ではできたこの基本的な感染制御を日本の政府は放棄してしまった。「若い人だけの感染症だから」「経済を回さねば」「重症者は出ていない」「医療は逼迫していない」という理由で、当然行うべき「感染者を減らす」という努力を怠ってしまったのだ。

若者の感染を看過していると、確実にその感染は高齢者などリスクグループに移行する。旅行を励行すれば、必ず感染は飛び火する。重症者が出ていないと嘯いていると、いずれは重症者や死者が出る。医療は、いつかは逼迫する。「第一波」の成功体験で思考停止に陥った日本は、とんでもない勘違いをしてしまったのだ。

世界各国を見てみると、コロナ対策がうまくいっている国は100%例外なく、感染者対策をしている。感染者を減らすことが、感染対策の肝なのだ。マスクもソーシャルディスタンスもPCR検査もその「手段」に過ぎない。なぜか日本では手段の議論ばかりが盛んに行われ、怪しげな奇策があちこちから提案され、無用な「空中戦」が乱発した。

「第二波」で分かったことがある。基本的な感染対策を怠ると、感染はどんどん広がるということだ。当たり前だ。「第二波」が本稿執筆時点(8月26日)で収束しつつあるのは、「Go To」のような政府のお気軽なキャンペーンに危機感を抱いた自治体や国民が自発的に活動制限を行ったからだ。

「第二波」での高齢者の死亡率は「第一波」と変わらないことも報じられた。25%ほどの死亡率だ。実はこの死亡率はイタリアでの高齢者の死亡率とほぼ同じである(https://www.statista.com/statistics/1106372/coronavirus-death-rate-by-age-group-italy/)。

つまり、である。日本では感染は広がりにくい、日本では死亡者が出にくい、というのは幻想に過ぎない可能性が高いということだ。現存するデータを吟味する限り、僕の推測では、ファクターXは実在しない。

岩田健太郎(神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)[新型コロナウイルス感染症]

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