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マグネシウム異常症[私の治療]

No.5026 (2020年08月22日発行) P.37

星野健司 (埼玉県立小児医療センター循環器科科長兼部長)

横田邦信 (東京慈恵会医科大学客員教授)

登録日: 2020-08-22

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  • マグネシウム(Mg)は生体内ではカルシウム(Ca),ナトリウム(Na),カリウム(K)についで4番目に多い陽イオン金属で,人体にはおよそ20数gのMgが存在する。そのうち60~65%が骨中に,25〜30%が筋肉中に,6~7%が他の組織中に,そして残りの1%が細胞外液に存在する。

    近年,食生活の欧米化に伴いMg摂取量は減少し,成人男性の1日平均摂取量は2001年で272mg,2010年で242mg(平均必要量310mg)と減少傾向にある。一般にMg欠乏では,血清Mg(SMg)の低下より,赤血球・リンパ球・骨格筋中のMg低下が早く現れる。また,SMg濃度は低いため,SMg値は栄養状態をあまり反映しないとされる。このため,低Mg血症とMg欠乏状態,高Mg血症とMg過剰状態は,必ずしも一致しない場合があるので,注意を有する。

    SMgは,約55%が遊離型(イオン化Mg:iMg),約14%が複合物を形成しているMg塩,約30%がアルブミンやαグロブリンと結合した形で存在する。Mgは解糖系酵素,リン酸伝達反応とATPが関与する反応系の酵素など300種類以上の酵素活性化に必要であり,その反応にはiMgが重要である。このため本来はiMgを測定すべきであるが,測定方法が煩雑であり,SMgを測定することが多い。一方測定では,溶血によるSMg濃度の上昇,全血のまま保存された場合に細胞内Mgの血清中への遊出,EDTA-2NaやヘパリンによるiMgとのキレート生成などにより測定値の変動が出るため,注意が必要である。

    SMgは1.7~2.3mg/dL(1.4~1.9mEq/L)と狭い範囲に保たれ,日内・日差・季節変動はほとんどなく,成長に伴う変動も少ない。しかしこの基準値は,母集団にメタボリックシンドロームや糖尿病など,SMgに影響を与えることが否定できない症例が含まれている可能性があり,これらを除外した完全健常者の基準値は,上記より高値であるとの報告もある1)

    経口的に摂取されたMg(4.0mg/kg/日)と消化液中に分泌されたMg(0.5mg/kg/日)の半分以上は,糞便中に排泄(2.5mg/kg/日)される。腸管内Mgは,小腸全般と大腸の一部から吸収(2.0mg/kg/日)される。小腸では,Mgは主に能動輸送によって吸収される。血液中のMgは腎糸球体で濾過され,3~5%が尿中に排泄(1.5mg/kg/日)され,大部分はHenle上行脚で再吸収される。これらのいずれかの機能に異常が起これば,Mg異常症が起こりうる。

    Ⅰ.低マグネシウム血症

    ▶診断のポイント

    SMgが1.6mg/dL(1.4mEq/L)以下のとき,低Mg血症と診断する。低Mg血症では,高頻度に低K血症(MgはKチャネルROMKの抑制因子のため,低Mg血症でKチャネルの抑制が解除され,K排泄が亢進し低K血症となる)や低Ca血症(PTHの分泌抑制と骨のPTH抵抗性を誘導し低Ca血症を引き起こす)を合併する。

    症状は,易疲労感,食欲不振,片頭痛,悪心・嘔吐,こむら返り,めまい,抑うつ,振戦,頻脈,血圧上昇などの非特異的なものが多く,高度(1.0~1.2mg/dL以下)になると痙攣,筋力低下,末梢血管や冠動脈の収縮,致死性不整脈を含む心電図変化,昏睡などが現れる。

    低Mg血症は,戦後の食生活の欧米化,アルコール多飲,低栄養,医原性(利尿薬投与,Mgを含まない過剰輸液,人工心肺を使用した外科手術),Gitelman症候群(SLC12A3遺伝子),Bartter症候群(CLCNKB遺伝子)などが原因となりうる2)

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    無症状の場合にはまず原因の除去を行い,食事療法・薬物療法(Mg製剤内服)を行う。治療は,緩徐に改善をめざす。有症状の場合は,まずMg製剤静注を行う。Mgは治療域が広く,SMg正常値の2倍程度までは副作用が出ることは少ないため,静注製剤も使用しやすい。

    ▶治療の実際

    【無症状の場合】

    一手目 :食生活の改善,基礎疾患の治療,医原性要因の排除

    Mg摂取量が少ない場合は,Mg含有量が多い食品(緑色野菜・全粒穀類・ナッツ・肉類・にがり使用の豆腐など)の摂取を指導する。穀類はMgが豊富とされているが,精白の過程でMg成分が豊富な細胞成分が除去され,Mg含有量は1/5~1/7程度となってしまう。

    二手目 :〈一手目に追加〉酸化マグネシウム®末96%以上(酸化マグネシウム)1回0.25~0.5g(小児0.1~0.2g/10kg/回を目安)1日4回(毎食後・就寝前)
    腎機能低下がある場合,軟便・下痢が出現する場合は,1回0.1~0.25g(小児0.04~0.1g/10kg/回を目安)で調整

    【有症状の場合】

    一手目 :硫酸マグネシウム®注1mEq/mL(硫酸マグネシウム)持続点滴静注〔メインボトルの点滴に添加し希釈投与,1.0~3.5mL/時を目安(小児0.2~0.7mL/10kg/時を目安)〕

    二手目 :〈一手目に追加〉硫酸マグネシウム®注1mEq/mL(硫酸マグネシウム)20mLを希釈して不整脈が停止するまで3~5分間で静注〔小児0.25~1.0mL/kg/回(最大20mL),不整脈が停止するまで3~5分間で静注〕3)

    【致死性不整脈出現の場合(QT延長症候群に伴うtorsades de pointes)】

    一手目 :硫酸マグネシウム®注1mEq/mL(硫酸マグネシウム)20mLを希釈して不整脈が停止するまで3~5分間で静注〔小児0.25~1.0mL/kg/回(最大20mL),不整脈が停止するまで3~5分間で静注〕

    二手目 :〈一手目に追加〉不整脈が停止しない場合は,上記用量を5~15分で静注(最大3回まで可能であるが,十分なモニタリングが必要である。3回目で不整脈の改善が得られない場合は他の抗不整脈薬や侵襲的治療を考慮する。改善傾向にあれば,三手目へ)

    三手目 :〈不整脈停止の有無にかかわらず,一手目に追加〉硫酸マグネシウム®注1mEq/mL(硫酸マグネシウム)持続点滴静注〔メインボトルの点滴に添加し希釈投与,1.0~3.5 mL/時を目安(小児0.2~0.7mL/10kg/時を目安)〕

    ▶偶発症・合併症への対応

    高Mg血症となり症状出現の場合は,高Mg血症の治療に準ずる。

    ▶非典型例への対応

    Gitelman症候群(SLC12A3遺伝子),Bartter症候群(CLCNKB遺伝子)など,特殊な病態を再度検討する。

    ▶ケアおよび在宅でのポイント

    基礎に食生活の問題がある場合は,食事指導を十分に行う。

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