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【識者の眼】「新型コロナ感染拡大と地域の変化(2)」中野智紀

No.5027 (2020年08月29日発行) P.56

中野智紀 (北葛北部医師会在宅医療連携拠点菜のはな室長、東埼玉総合病院)

登録日: 2020-08-12

最終更新日: 2020-08-12

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介護施設では感染症対策に奔走する一方で、入居中の高齢者には良くも悪くも大きな変化は見られないとの話を聞く。確かに、この傾向は元から面会する人が少なかったり、普段からあまり外出していない施設において顕著である。しかし、実際に訪問診療で介護施設に伺うと、ストレスを抱えて苛立つ高齢者や、表情を失ってしまっている高齢者も少なくない。職員らは彼らの状況に目を配る余裕がないように見える。

規範やパニックという、ウイルスより現実的な脅威が地域社会に蔓延している。著者もここまで自粛による社会参加の抑制が起こるとは予想できなかった。テレビから一方的に提供される情報に圧倒され、不安に押し潰されそうな人もいるが、実際にはパニックに陥った人たちや過度な規範を押し付けてくる人たちに攻撃されるのを恐れて家に篭っているようにも見える。

支援者へも行政から活動自粛の圧力がかかっている。私たちの拠点も継続してきたアウトリーチが困難な状況にある。行政は公民館や学校、公園などの使用禁止や、市民団体へ自粛を要請する手紙の送付、あるいは毎日響き渡る自粛を促す防災無線など、市民間の同調圧力を強化しているように見える。家庭内暴力や介護殺人の可能性も懸念される中、支援が必要な人たちの情報を集めるのさえ困難な状況が続いている。

子供たちへの影響も計り知れない。若い時の貴重な時間を感染拡大防止と共に過ごさなければならなくなった心中は筆舌に尽くし難い。家庭内暴力の増加や、介護者やヤングケアラーの負担増に加え、望まない妊娠の増加など新たな問題も散見し始めてきている。

経済活動も制限、一部で停止の状態だ。公的な支援に十分な期待ができない状況の中で、膨らみ続ける損失に経営者たちは途方に暮れている。

感染拡大防止なき生活の再建はあり得ない。しかし、感染から生命を守るのも医療ならば、一方で人々の暮らしを守るのも医療だろう。再び緊急事態宣言が発出されるかもしれない現在、これらの二律背反について考える必要がある。著者は新型コロナウイルスの感染拡大防止を続けながら、生活を守るためのガイドラインと各地域の状況に応じたきめ細かな(市町村レベルの)感染症マネジメントが必要と考える。

中野智紀(北葛北部医師会在宅医療連携拠点菜のはな室長、東埼玉総合病院)[コミュニティドクターの地域ケア日誌⑤]

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