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【識者の眼】「子ども虐待の世代間連鎖を断ち切る」小橋孝介

No.5024 (2020年08月08日発行) P.62

小橋孝介 (松戸市立総合医療センター小児科副部長)

登録日: 2020-07-29

最終更新日: 2020-07-29

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東京都太田区、台東区とネグレクトによる乳幼児の虐待死が相次いで報道された。虐待死は「幼い子がひどい親に殺された悲しい事件」として報道される事が多く、なぜそういった事態に至ってしまったのか、その背景をきちんと論じる事なく「加害親=犯罪者」という一つの事件として捉えられることが多い。しかし、子ども虐待のない社会を目指すのであれば、加害親を犯罪者として罰するだけでは、何も変わらない。そればかりか未来の子ども虐待に私達も加担していることにもなりうる。

子ども虐待は世代を超えて親から子へ連鎖(世代間連鎖)する事は古くから様々な研究で報告されている。親の被虐待歴は子ども虐待の重大なリスク因子であり、被虐待歴のある親の3人に1人は子どもを虐待すると報告されている。ここで大切なのは、被虐待歴のある親のうち3人に2人は世代間連鎖していないことだ。Egelandら1)の長期予後研究によると、そこには①虐待的でない大人からのサポートを子ども時代に受け取ることができた体験、②時期や種類を問わず一年以上の期間の治療、③情緒的に支えになる安定した配偶者─という三つの因子があったとしている。つまり、他者から尊重され守られる体験が、子ども虐待の世代間連鎖を止める鍵となるのである。鷲山2)は「『被虐待歴が虐待を起こす』のではない、『被虐待歴のある人に周囲の地域社会が必要な支援を怠った時次世代へ虐待が引き起こされる』のである」と述べている。

太田区で亡くなった稀華(のあ)さんの母は幼少期から激しい虐待を受け小学校の時に保護、児童養護施設で育っている。この母もまた被害者であり、その世代間連鎖を防げなかった事は、母に対して必要な支援が十分になされなかった結果であり、地域社会にも責任がある。

子ども虐待は身近な問題である。虐待を「子どもの安心・安全」という視点から捉え、分離保護が必要になる以前に、支援的対応として、私達一人一人が子どもとその家族にどう寄り添い支えていくのかが問われている。

【文献】

1)Egeland B, et al:Child Dev. 1988:59(4):1080-8

2)鷲山拓男:子どもの虐待とネグレクトの本質を知る. 子どもを虐待から護る. 上野昌江, 編. 日本看護協会出版会, 2019, p54-62

小橋孝介(松戸市立総合医療センター小児科副部長)[子ども虐待][子ども家庭福祉

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