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【識者の眼】「『空気感染の対策に取り組むべき』という科学者の提言のニュースに私が驚かなかった理由」和田耕治

No.5022 (2020年07月25日発行) P.52

和田耕治 (国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)

登録日: 2020-07-08

最終更新日: 2020-07-08

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1. 過日、「It is Time to Address Airborne Transmission of COVID-19」というタイトルの科学者からの意見が出されました1)。「空気感染の対策に取り組むべき」とする意見です。これを日本のメディアが「空気感染」する可能性と報じていたことと、少し不安になった方のコメントが散見されたのでこれを書いています。

2. 新型コロナウイルスは、接触感染と飛沫感染が主だと考えられています。しかし、ある場面では微細な飛沫が、従来考えられていた飛沫感染の1〜2mよりも少し遠くに飛ぶことが、事例として報告されています。ここでいう「ある場面」とは、声を出している、食事をしている、特にお酒を飲んでいる、という場面です。微細な飛沫が会話により、個人差はあるものの、声を大きくすると多量に放出されることがわかっています2)

3. 過日の新型コロナウイルス感染症対策分科会(第1回)資料において「マイクロ飛沫感染」という言葉が出てきています。これは、5μm未満の粒子が空気中を漂い、少し離れた距離にまで感染した事例と説明しています。先の論文とも似ている概念であり、今後さらに定義を明確にする必要があります。

4. 少し注意が必要と思うのは、従来の「空気感染」というのは、微細な飛沫が空気中に一定期間漂って、比較的遠くの人にも伝播する現象で、結核菌や麻疹ウイルスでみられます。今回は伝播する距離は数m程度の距離で、従来の空気感染の想定される距離よりは「短い距離」が想定されています。

5. 日本では、3密を早くから避けるよう呼びかけていました。密閉には換気を、密集には、できるだけ人を減らし距離を開ける、密接には会話をする際にはマスクを着用するなどの対策です。

6. 論文1)でも対策として、①様々な場所で十分で効果的な換気をすること、②局所排気や高機能のフィルター、紫外線の活用、③人混みを避ける─が挙げられています。しかし、②は医療機関ではできるかもしれませんが、一般の建物では難しい。そのため、①と③を目指すことになりそうですが、これらは既に日本では提案されています。

7. なお、会話を伴わず、普通の呼吸をしているのみの場合は、口からも鼻からも飛沫はほとんど出ていないと考えられています2)

【文献】

1)Morawska L, et al:Clin Infect Dis. 2020;ciaa939.

2)Asadi S, et al:Sci Rep. 2019;9(1):2348.

和田耕治(国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)[新型コロナウイルス感染症]

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