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【識者の眼】「微分の医療・積分の医療」神野正博

No.5022 (2020年07月25日発行) P.55

神野正博 (社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長)

登録日: 2020-07-08

最終更新日: 2020-07-08

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ニュートンがリンゴの木の下で万有引力の法則を発見した(らしい)ことは有名だ。このアイザック・ニュートン(1642〜1727)、リンゴの話だけではない。自然哲学、数学、物理学、天文学、錬金術、神学、キリスト教神学、経済学に長け、運動力学のための微積分法の発見という輝かしい業績を持つ。

とすれば、ニュートンが微分・積分を発見しなければ高校の数Ⅱや大学入試で苦労することはなかったのにと思ってしまう。しかし、微分・積分がなければ、電気は通らず、スピードメーターは機能せず、建物や橋の設計はできないし、株価のトレンドの把握はできない。

“微分とは、チリのように目に見えない小さなものを顕微鏡で見ようとすること。積分とは、まさに「ちりも積もれば山となる」のように、そのチリを目に見えるくらいたくさん積み重ねようとすること”(『難しい数式はまったくわかりませんが、微分積分を教えてください!』たくみ著、SBクリエイティブ、2019年より)らしい。

さて、これまでの西洋医学に基づく医学・医療は、より細分化、専門分化してきた。それが、診療科の分化、専門化であり、さらには疾病や異常を、細胞レベルから遺伝子レベルの解析にまで深化させてきた。まさに「微分の医療」だ。一方、東洋医学は「気・血・水」といったコンポーネントから人全体を概観する医療、まさに「積分の医療」かもしれない。

これからの病院機能を疾病治療ばかりではなく、未病・予防であるとすると、より細分化していく「微分の医療」から人全体を概観する「積分の医療」への転換が重要かもしれない。

何も今の病院で、医療界の趨勢である西洋医療を止めるということではない。これまで蓄積されてきた英知や最新のゲノム解析までに至る知見である微分を、全人的な積分につなぐ役割としての総合診療、それらを統合的につなぐツールとしてICTやAIに期待が高まるのである。

神野正博(社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長)[総合診療][ICT・AI

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