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患者の治療と仕事の両立支援(総論・後編)─医療用語を仕事の作業の言葉に翻訳した主治医意見書が鍵[プライマリ・ケアの理論と実践(67)]

No.5020 (2020年07月11日発行) P.12

武藤 剛 (北里大学医学部衛生学講師・千葉大学予防医学センター・新浦安虎の門クリニック(共に非常勤))

登録日: 2020-07-09

最終更新日: 2020-07-08

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SUMMARY
働く患者に対する社会的処方としての両立支援は,医学教育モデル・コア・カリキュラムへの収載に加え,平成30年度診療報酬改定で新設された(令和2年度拡充)。患者のエンパワメントをめざし、職場との情報キャッチボールの基本となるのが,両立支援の主治医意見書である。この記載の際は,医学医療用語を翻訳し,働く現場の作業で求められる配慮について時間軸を意識して述べることが望まれる。

KEYWORD
療養・就労両立支援指導料
企業から提供された勤務情報に基づき,患者に療養上必要な指導を実施するとともに,企業に対して診療情報を提供した場合について評価。その後の勤務環境の変化を踏まえ,療養上必要な指導を行った場合も評価。対象疾患は,がん・脳卒中・肝疾患・指定難病。初回800点,2回目以降400点,相談支援加算50点。

武藤 剛〔北里大学医学部衛生学講師・千葉大学予防医学センター・新浦安虎の門クリニック(共に非常勤)〕

PROFILE
千葉大学医学部卒業後,国立国際医療センターで初期研修・膠原病内科診療に従事(ベスト研修医高久史麿賞受賞)。PMDA専属産業医,日本医師会武見国際フェロー(Harvard公衆衛生大学院)を経て,現職。日本内科学会総合内科専門医・日本産業衛生学会専門医・労働衛生コンサルタント・社会医学系指導医。

POLICY・座右の銘
夢見て行い,考えて祈る

1 患者のエンパワメントを目的に,どのように患者の職場を想像して支えるか

両立支援といっても,患者の仕事について主治医は介入できないし,大半は産業医の業務ではないか,という意見があるかもしれない。確かに法令上,50人以上の事業場では産業医が選任されているため,その主張も一理あるが,患者の過半数はそれ以下の規模の職場で働いているのが実態である。

以前は確かに,「職場のことは産業医にお任せ/治療のことは主治医にお任せ」と臨床医と予防医がお互いを立てることで,患者/労働者にとっての利益が最大となる時代があった。しかしお任せも度が過ぎると,丸投げとなる。丸投げの結果,「治療のためには仕事を辞めるしかない(がんのビックリ退職)」「仕事のためには疾病は放置(インスリンを職場で打てない等による糖尿病の重症化)」と患者への不利益が指摘されるようになり,これを是正するのが両立支援の肝である。臨床と予防がお互いをリスペクトしながら,協調することが求められる時代である。

英国のFit noteのように,日本でも臨床医が「就労(復職)に関する主治医意見書」を書く場面は,特にメンタルヘルスの分野では以前からみられてきた。「どのように復帰するか(試し出勤・リハビリ勤務),復帰後どのように配慮するか(残業や出張の就業規制)」について主治医が意見を述べる場合,その書類の宛先(誰がそれを読むか)によって内容を変える必要があることを銘記したい。主治医から産業医に宛てる意見書であれば(書類授受にあたっての患者同意は前提となる),医療職間の情報共有ということで,病態や治療の内容を含めた,患者の今後の仕事についての意見がベストである。しかし,主治医意見書の提出先が,産業医というより会社(事業者:具体的には人事総務部)であることは少なくない。産業医選任義務のない小規模零細事業場であれば常にそうなる。その場合,職場が求める情報は,医学的情報(病態や治療の中身)ではなく,「どのような仕事をさせてよいか,職場でどのような配慮をすると治療への影響が少ないか」の視点であることに注意する。特に患者の仕事先で産業医がいるか(いても機能しているか)はっきりしない場合,その患者に対して産業医に近い役回りをするのは主治医/プライマリ・ケア医となる。「医療用語を職場の言語(仕事に関する情報)に翻訳」したものが主治医意見書の基本となることに留意したい。

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