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【識者の眼】「健康格差対策としての配慮ある普遍的アプローチとは」西村真紀

No.5020 (2020年07月11日発行) P.62

西村真紀 (川崎セツルメント診療所所長)

登録日: 2020-07-01

最終更新日: 2020-07-01

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第7回は、SDH(social determinants of health、健康の社会的決定要因)が原因となる健康格差に対する7原則:医療科学研究所のSDHプロジェクト(https://www.iken.org/project/sdh/pdf/17SDHpj_ver1_1_20170803.pdf)の中の第2原則である「配慮ある普遍的アプローチ」についてお話しします。

「集団アプローチ」は社会環境を改善し、集団全体の健康リスクを下げる手法です。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連で国は感染防御のため在宅勤務を推進しましたが、在宅勤務できない人や多くの外国人労働者、ネット環境のない人、非正規雇用の人など支援が必要な人ほど感染の危険にさらされたり収入が減ったりしました。このように集団アプローチでは格差は縮小するどころか拡大すると言われています。例えば市民講座やキャンペーンで健康増進を図ろうとしても、もともと健康で健康に関心のある人、比較的裕福な人ほどその恩恵を受け、なかなかアクセスできない社会的弱者はおいてけぼりになりやすいからです。健康に関心のない人を参加させる仕組みが必要です。健診を受けたり健康イベントに参加するとクーポンや景品がもらえるなどの取り組みをしている自治体もあります。

一方、「弱者集団アプローチ」は特に手厚く対策をとるべき集団を選定して重点的対策をほどこすもので、格差対策としては理にかなっています。COVID-19関連でも小規模事業者等臨時給付金や学生支援緊急給付金などがあります。このアプローチでは、集団を特定しレッテルをはることが差別的、あるいは逆差別につながる、選別基準の線引きが難しい、手続きが複雑などの問題点があります。アクセスしにくい人への対策ですから、手続きを支援する体制も必須です。

そこで、「傾斜をつけた配慮ある普遍的アプローチ」が提案されています。すべての人が恩恵を受けますが、脆弱な集団には手厚い援助がなされるというものです。保健師が行っている新生児全家庭訪問とフォローアップはこれに当たります。COVID-19対策でのマスク配布や10万円給付も工夫によっては傾斜をつけることができたかもしれません。

西村真紀(川崎セツルメント診療所所長)[健康格差対策][SDH⑦][配慮ある普遍的アプローチ]

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