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【識者の眼】「子どもの精神疾患、海外の論文を読む際の留意点」石﨑優子

No.5021 (2020年07月18日発行) P.65

石﨑優子 (関西医科大学小児科学講座准教授)

登録日: 2020-06-29

最終更新日: 2020-06-29

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子どもの心の問題や思春期の精神疾患が社会的な問題となっている。我が国のこの領域に関する研究は、欧米、特に北米に遅れをとっていると考えられ、熱心な医師は欧米の論文を多く読んでいる。事実、米国では精神疾患の疫学論文や薬物治療の二重盲検試験などの論文が数多く発表されているが、そのような論文を読む際に念頭に置いて頂きたいことがある。

まずは人種(race)と民族性(ethnicity)である。有病率や薬物の代謝には人種差があるし、文化や価値観が異なれば修飾する環境要因に影響を及ぼす。そしてそれに根差した社会経済地位(socioeconomic status)が食事、教育、就業そして受療行動にも関与する。また文化における性役割もかかわっているであろう。

日本の子どもの心の問題は不登校を避けて通れないが、教育システムが異なるため、不登校の様相が全く異なっている。日本の不登校は同年齢の集団に適応が難しく引きこもる子どものイメージが強いが、米国では薬物依存や触法行為の果てに学校からドロップアウトしてしまう子どもである。日本では学校に行かなくても進級できる。希望すれば同じ学年を再度履修できるが、非常に稀であり、極端な場合には全く登校できなくても義務教育を終えることがある。しかし米国はじめ海外では小学生も成績が悪ければ、あるいは学校に行かなければ落第する。よって不登校の国際比較は相当に注意を要する。

家族のありようも異なる。日本ではひとり親家庭の子どもは貧困とともに「肩身の狭い思い」をするが、海外では、同性婚、さらに養子縁組により人種の違う子どもがいる家庭など多彩である。ひとり親家庭の子どもが感じる負担の違いも推して知るべしであろう。

治療の選択にあたっては費用と便益の関係(cost-benefit)が重視される。日本では国民皆保険制度の下、さらに乳幼児医療制度によって多くの子どもがベストの治療を受けることができるが、海外では必ずしもそうではない。心の問題に薬物がベストではなく心理療法が望ましいが、cost-effectiveなのは薬物療法であるために第1選択になることもあるのである。

わが国の子どもに役立つ情報を知るために海外の論文を読む際には、このようなさまざまな背景の違いを考慮しながら読んで頂きたい。

石﨑優子(関西医科大学小児科学講座准教授)[児童精神][社会小児科学]

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