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【識者の眼】「HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか(5):痛みと慢性疼痛、CRPSについて」奥山伸彦

No.5019 (2020年07月04日発行) P.66

奥山伸彦 (JR東京総合病院顧問)

登録日: 2020-06-17

最終更新日: 2020-06-17

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痛みとは何か、と問われた時、我々は往々にして神経病理を基本として考える。しかし、痛みに臨床的に対応しているペインクリニックや精神科、心療内科では、器質的異常では説明できない痛みについて、人間を生物学的、心理的、社会的側面を持った複雑系として理解し対応している。

1979年国際疼痛学会(IASP)は、痛みとは「実際に何らかの組織損傷が起こった時、あるいは組織損傷が起こりそうな時、あるいはそのような損傷の際に表現されるような、不快な感覚体験及び情動体験」と定義し、組織損傷がなくても組織損傷によって生じる痛みと同じと訴えるなら、それは痛みと受け入れるべき、つまり「痛みはいつでも心理的な状態」であると解説している。

それを受けて、慢性疼痛とは、通常の組織治癒期間(3カ月)を超えて持続する「組織損傷との対応が見出されず、歪んだ認知・情動処置により複雑な病態として表現される痛み」と整理され、痛みを表現する行動や社会的影響という心理社会的要因により悪循環(恐怖─回避モデル)に陥っている状態、と考えられている。

また、慢性疼痛の中には「疼痛刺激などを契機に、それでは説明困難な身体の疼痛が発症し、しばしば皮膚などの交感神経症状を合併し、既知の疾患に相当しない」という疾患概念CRPS(複合性局所疼痛症候群、IASP1994)が含まれている。HPVワクチン積極的勧奨中止の際、その判断の理由となった「持続的な激しい疼痛や運動障害」の内訳としても「CRPS5例、CRPS以外の広範で重篤な疼痛症例38例」が紹介されている。ここで、この疾患全体をCRPSと診断できないのは、日本の判定指標が主に40代後半を平均とした女性を対象としており、思春期にもう一つのピークがあることがあまり知られていないことにもよる。「小児期のCRPS」(“CRPS in children” UpToDate)は、13歳を平均とする女性に多く、契機となる外傷(ワクチンを含め)の変化が目立たず、予後が良好で、しばしば転換性障害を合併し、認知行動療法が有用であるなどの特徴があると説明されている。私は、この概念が、HPVワクチン接種後の症状をより的確に説明していると考えている。

奥山伸彦(JR東京総合病院顧問)[小児科][HPVワクチン]

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