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急性網膜壊死(桐沢型ぶどう膜炎)[私の治療]

No.5015 (2020年06月06日発行) P.51

臼井嘉彦 (東京医科大学臨床医学系眼科学分野講師)

登録日: 2020-06-04

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  • 急性網膜壊死(acute retinal necrosis:ARN)は,別名「桐沢型ぶどう膜炎」とも呼ばれ,単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus:HSV),または水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus:VZV)の眼内感染により生じるきわめて視力予後不良な疾患である。ARNは,わが国における代表的な感染性ぶどう膜炎のひとつであるが,ぶどう膜炎全体の約数%と日常眼科診療で遭遇する可能性は低く,明確なガイドラインのない希少疾患である。

    ▶診断のポイント

    ARNにおける前眼部所見として,豚脂様角膜後面沈着物を伴う急性虹彩毛様体炎をきたし,眼底所見として,片眼性の網膜動脈を主体とした血管炎や,棍棒状出血と眼底周辺部に顆粒状黄白色病変がみられる。約30%の症例は初診時に眼圧が上昇するが,眼圧が上昇していても隅角が閉塞していなければ,ARNを除外するためにも必ず散瞳して眼底周辺部まで観察することが診断のポイントである。病状が進行してくれば,特徴的な眼底所見より診断は容易であることも多いが,初期のARNでは眼底所見からの診断が難しいことも多い。そのため,疑わしきは眼内液(前房水や硝子体)からHSVあるいはVZVのゲノムDNAをreal-time PCR法により定量的に測定する。近年では,網羅的に病原微生物を検索するPCR検査(PCR strip検査)が開発され,少量の眼内液を用いて迅速に検査が可能である。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    眼内のHSVもしくはVZVの増殖を阻止することを目的とした,抗ウイルス療法における薬剤投与であるが,上述したPCRの結果を待たず,臨床的に疑われた場合は,第一選択薬としてアシクロビルを約2週間点滴静注する。両眼発症例の左右眼の発症間隔が,約70%の症例で1カ月以内であることから,後療法としてアシクロビルのプロドラッグであるバラシクロビルを投与し,眼所見に合わせて中止する。ARNの原因ウイルスは約80~90%がVZVであるが,アシクロビルに対する感受性が低く,HSVよりも眼内におけるウイルスコピー数が多い。さらに,アシクロビル耐性のARNも存在するため,アシクロビルに代わる抗ウイルス療法として,バルガンシクロビルの内服投与や,ホスカルネットの硝子体内投与を試みる(保険適用外)。

    さらに,ARNではウイルスによる直接的な組織障害に加え,ウイルスによる過剰な免疫および炎症反応が病態に関与しているため,抗ウイルス療法に抗炎症療法として副腎皮質ステロイドの全身投与も併用する。網膜剥離や後部硝子体剥離を生じつつ広範囲な網膜壊死のある症例や,硝子体混濁が増強し詳細な眼底像が把握しにくいときは硝子体手術を行う。また,前房水中VZVが5.0×106~1.0×107copies/mL以上では最終視力不良,網膜剥離を起こす危険性が高いため,網膜剥離を生じていなかったとしても早期の硝子体手術を考慮している。硝子体手術を施行する症例では,全例で♯287シリコーンタイヤを用いた輪状締結術,水晶体摘出およびシリコーンオイル充填を併用している。

    【治療上の一般的注意・禁忌】

    全身状態の不良な患者および高齢者については,抗ウイルス薬やステロイドによる副作用が出やすいため,投与後の眼科以外の全身所見への注意も必要である。腎機能や肝機能が著しく低下した患者については,抗ウイルス薬の全身投与ではなく,硝子体内投与も考慮する。

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