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【識者の眼】「米国はPSA検診で前立腺癌の転移癌比率、年齢調整死亡率が激減」伊藤一人

No.5016 (2020年06月13日発行) P.60

伊藤一人 (医療法人社団美心会黒沢病院病院長)

登録日: 2020-05-25

最終更新日: 2020-05-25

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今回は、No.5011(https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=14594)で指摘したPSA検診に批判的な主な6つの意見のうち、2つ目の「米国の前立腺癌死亡率は低下しているが、罹患率と死亡率の解離が大きく、過剰診断の不利益を被るリスクが大きい」との反対根拠について問題点を解説します。

まず、米国人男性の3大癌である前立腺癌、肺癌、大腸癌の死亡数/罹患数比は、米国癌登録データによると、それぞれ0.18(2万9430/16万4690)、0.69(8万3550/12万1680)、0.36(2万7390/7万5610)です。診断された肺癌の7割、大腸癌の4割弱が死亡する厳しい現状ですが、肺癌の57%、22%、大腸癌の21%、35%が、それぞれ根治困難な転移癌、致死的進展が起こり得る浸潤・リンパ節転移癌ですので、発見の遅れが予後不良の大きな要因です。前立腺癌はPSA検診が全米で普及し、早期発見が可能になり(転移癌5%、浸潤・リンパ節転移癌12%)、適切治療と合わせ、死亡数/罹患数比が2割弱にまで治療成績が改善しました。一般的に、癌診断感度の高い早期診断プログラムほど過剰診断の不利益を被りますが、限局癌比率は上がり、死亡数/罹患数比は下がります(PSA検診の過剰診断・治療対策に泌尿器科医は全力で取り組んでいます)。一方で、画期的な早期診断プログラムがない場合、診断遅れの不利益を被り、転移・浸潤癌比率が高くなり、死亡数/罹患数比は上がってしまいます。

米国における前立腺癌は、pre PSA era(1980年前後)とPSA eraの成熟期(2014年)の間に、劇的な臨床病期シフトが起きました。年齢調整前立腺癌罹患率(10万人あたり)は1977年頃が約100人で、検診の普及で92年にはピークの約240人に上昇し、その後徐々に低下し、2014年には約100人と1977年と同レベルになりました。その間に転移癌比率は1977〜82年の23%から2014年には5%にまで激減し、年齢調整死亡率は40%以上低下しています。PSA earの成熟期と比較してpre PSA eraの方が死亡数/罹患数が低いので良い時代だ、という泌尿器科臨床医はいません。

伊藤一人(医療法人社団美心会黒沢病院病院長)[泌尿器科における新しい問題点や動き]

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