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【識者の眼】「『無罪判決』=『虐待がなかった』ではない」小橋孝介

No.5011 (2020年05月09日発行) P.36

小橋孝介 (松戸市立総合医療センター小児科副部長)

登録日: 2020-05-10

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2020年2月3日東京地裁で2017年に硬膜下血腫や肋骨骨折を認めabusive head trauma(AHT)として虐待通告された1カ月女児の死亡事例について、児を揺さぶって死亡させたとして傷害致死罪に問われた父の裁判員裁判で無罪判決が出された。2018年以降AHTに関わる裁判では相次いで無罪判決が出されている。一部のメディアでは、無罪によって虐待の事実が完全になくなったかのように受け取れる報道がなされている。

このような無罪判決が続くことにより、虐待通告をためらうなどの子どもの安心・安全を脅かす事態に繋がらないよう、我々は正しくこれらの無罪判決を読み解かなければならない。

医療や福祉の現場では虐待を子どもの立場から、「子どもにとって、その行為が子どもの安心・安全を阻害していないか」を基準に考える。少しでも疑いがあれば、子どもを守るために通告等のアクションを起こす義務が我々にはある。そして、「子どもの安心・安全」を共通のゴールとして多機関で連携し、子どもと家族に向き合っていく。一時保護になるような、乳児に頭部外傷やその他の身体外傷等が家庭内という密室で起こっている事例では、再発がないという合理的な子どもの安心・安全が確認できなければ、再統合はできない。

一方、刑事司法においては「疑わしきは被告人の利益に」という原則から「合理的な疑い」がない程度に起訴事実を証明できなければ無罪になる。どんなに黒に近くても、グレーは無罪になるのである。つまり無罪は「被告人による虐待が100%あったとはいえない」ということであって99%虐待があったかもしれなくても、1%の合理的な疑いがあれば無罪なのである。そして、そもそも主語は被告人であり、子どもにとって安全・安心かどうかを判断するものではないのである。

無罪判決は、「子どもの安心・安全を守る」という虐待対応とは全く異なる世界の全く異なった基準で行われる判断である。「無罪」=「虐待がなかった」「子どもにとって安心・安全」ではない。このような結果に医療や福祉は惑わされてはならない。

無罪判決が出たとしても、我々は「子どもの安心・安全」という共通のゴールを見失わず、粛々と虐待対応を進めていく必要がある。

小橋孝介(松戸市立総合医療センター小児科副部長)[児童虐待][子ども家庭福祉]

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