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【識者の眼】「COVID-19流行は緊急事態─今こそ、ファビピラビル(アビガン®)の使用を解禁すべき」菅谷憲夫

No.5006 (2020年04月04日発行) P.58

菅谷憲夫 (神奈川県警友会けいゆう病院感染制御センターセンター長・小児科、慶應義塾大学医学部客員教授、WHO重症インフルエンザガイドライン委員)

登録日: 2020-03-27

最終更新日: 2020-04-06

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1.SARS-Coronavirus-2

新型コロナウイルスの感染症名はCoronavirus disease 2019(COVID-19)であるが、ウイルス名に注目すれば、SARS-Coronavirus-2(Sars-CoV-2)である。

Sars-CoV-2感染症は、インフルエンザに比べ、はるかに重い疾患であることは間違いなく〔「COVID-19はSARSに類似(2)」(No.5001〕参照)、治療薬、ワクチンがないことや、2.4%という日本の死亡率の高さには(81人/3350人、4月4日時点)、多くの国民が不安になるのは当然である。1918年のスペインかぜの日本の死亡率1.6%と比較しても、その重症度は実感される。

早期に実用化が可能と報じられたワクチンであるが、実用化には最低でも1年から1年半は要するとされる。またCOVID-19では、ワクチン接種を受けた人が実際に感染した場合、逆に重症化する副作用の可能性もあるので、治験は慎重に実施する必要がある。不活化RSウイルスワクチンを接種した乳児が、RSウイルスに罹患した際に重症化し、死亡した報告もある。

一方、治療薬の開発も進んでいる。今、世界保健機関(WHO)が“SOLIDARITY(連帯)”という名称の下、大規模な治験を開始したが、そこで取り上げられた薬剤は、エボラ出血熱治療薬として開発されたレムデシビル、マラリア治療薬クロロキン、抗HIV薬ロピナビル・リトナビル(カレトラ配合錠®)、そしてロピナビル・リトナビルとインターフェロン-βの併用である(https://www.sciencemag.org/news/2020/03/who-launches-global-megatrial-four-most-promising-coronavirus-treatments)。

2.インフルエンザ治療薬ファビピラビル(アビガン®)がCOVID-19に有効の可能性

世界のインフルエンザ専門家の間では、「COVID-19は、スペインかぜ以来の100年振りの人類の危機」と言われているが、インフルエンザ治療薬ファビピラビルが有効である可能性が報告された。

武漢からの論文

中国・武漢の3施設で実施された、COVID-19入院例を対象としたopen-label,randomized superiority trialである。本論文は、査読前に公開されているので、現時点では参考資料である(https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.03.17.20037432v2)。

ファビピラビルとロシアで開発された抗ウイルス薬アルビドールの間で、臨床的有効性を比較した。アルビドールは、中国でインフルエンザ治療薬として広く使用されてきたが、中国のCOVID-19治療ガイドラインでは、治療薬としての使用が勧奨されている(https://www.chinalawtranslate.com/en/diagnostic-and-treatment-plan-6/)。

236例のCOVID-19患者のうち、ファビピラビル群が116例、アルビドール群が120例であった。ファビピラビル群では、1日目は11600mg12回、2日目からは1600mg12回経口投与した。投与方法は、後述の日本のインフルエンザ治療と同様である。ファビピラビルとアルビドールは、ともに710日間投与し、投与開始7日後の臨床回復率を比較した(72時間以上の解熱、呼吸数、酸素飽和度、咳嗽などの改善で判定)。

臨床回復率は、ファビピラビル群が61.3%(71/116)、アルビドール群が51.7% (62/120)で有意差はなかった(P=0.1396)。しかし、重症例を除き中等症だけで臨床回復率を比較すると、ファビピラビル群が71.4%(70/98)、アルビドール群が55.9% (62/111) であり有意差が見られた(P0.0199)。

発熱期間と咳嗽の期間も、中等症の患者で比較すると、ファビピラビル群がアルビドール群よりも、有意に短縮した(P<0.0001)。著者らは結論として、中等症のCOVID-19患者では、ファビピラビルがアルビドールよりも好ましい治療であるとした。

ファビピラビル群では、血中の尿酸値の上昇が認められたが、この問題点は、ファビピラビルの添付書にも記載されている(後述)。本論文については、統計解析から見て、いくつかの問題点も指摘された(https://zenodo.org/record/3734198#.XoqJxv37TDc)。

318日のEngineering誌で、COVID-19入院患者を対象とした、ファビピラビル群と抗HIV薬ロピナビル・リトナビル(カレトラ配合錠®)群でのnon-randomized, open-label,controlled trialの論文が発表されたが、43日の時点で、取り下げ(withdrawal)となった。理由は不明である(編集部注:現在は論文が再掲載されています。https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2095809920300631)。

日本でのファビピラビル(アビガン®)の位置付け

ファビピラビルは富山化学が抗インフルエンザ薬として開発したRNAポリメラーゼ阻害薬である。鳥インフルエンザH7N9ウイルス出現により、その重要性が注目され、2014年3月に日本で製造販売承認を取得したが、動物実験で催奇形性という重大な副作用があり、季節性インフルエンザでの使用はできず、新型インフルエンザが流行し、他の抗ウイルス薬が無効と国が判断した場合に、製造が許可され使用できることになっている。

H7N9ウイルスは死亡率が高く、パンデミックを起こす可能性の高いインフルエンザと考えられていた。オセルタミビル(タミフル®)で治療すると、容易に耐性ウイルスが出現し、強毒化することが問題であったが、ファビピラビルはオセルタミビル耐性ウイルスにも有効で、ファビピラビル自体に対する耐性の発生がほとんどないことが大きな利点であった。日本では、新型インフルエンザ発生に備え、200万人分が備蓄されている。

ファビピラビルは、インフルエンザに使用する場合は、添付文書に、①動物実験において、本剤は初期胚の致死および催奇形性が確認されていることから、妊婦または妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと。②妊娠する可能性のある婦人に投与する場合は、投与開始前に妊娠検査を行い、陰性を確認した上で投与を開始すること。③本剤は精液中へ移行することから、男性患者に投与する際は、その危険性について十分に説明した上で、投与期間中および投与終了後7日間、性交渉を行う場合はきわめて有効な避妊法の実施を徹底(男性は必ずコンドームを着用)するよう指導すること。また、この期間中は妊婦との性交渉を行わせないこと等、妊婦での使用禁止と、男性でも性交渉での厳しい注意が記載されている(http://fftc.fujifilm.co.jp/med/abigan/pack/pdf/abigan_package_01.pdf)。

ファビピラビル(アビガン®)、催奇形性以外の副作用は少ない

ファビピラビルは、副作用が強いから使用すべきではないと一般に考えられているが、催奇形性を除けば重大な副作用はない。慎重投与として、痛風または痛風の既往歴のある患者および高尿酸血症のある患者では、血中尿酸値が上昇し、症状悪化のおそれはある。

ファビピラビル(アビガン®)は内服薬

アビガンは比較的に大きな錠剤で、1錠中に200mgのファビピラビルが含まれている。インフルエンザ感染症では、成人にはファビピラビルとして1日目は1回1600mgを1日2回、2日目から5日目は1回600mgを1日2回経口投与する。大きな錠剤を1日目は、1回8錠で1日2回、計16錠飲むことになり、高齢者には負担が大きい。

3.抗HIV薬ロピナビル・リトナビル(カレトラ配合錠®)は無効

(カレトラ®の詳細については、https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/6250101F1037_2_10 参照)
COVID-19に対するロピナビル・リトナビル治療についてrandomized, controlled, open-label trialの結果が、New England Journal of Medicine誌に発表されている(Cao B, et al:N Engl J Med. 2020.)。

残念ながら、ロピナビル・リトナビルの有効性は認められなかった。ロピナビル・リトナビルを14日間投与した重症99例と、標準治療の重症100例に分けて検討した。主要評価項目である臨床症状改善期間には有意差がなかった。発症28日での死亡率も、19.2%と25.0%で両群間に有意差は無かった。無効を印象付けるのは、患者の咽頭拭い液でのRNAウイルスの検出率である。ウイルス排出期間に、ロピナビル・リトナビル群と標準治療群で有意差はなかった。

WHOは、この治験には重症者が多く、投与開始の時期が遅かったとして、軽症者での効果を調べることも含め、再度、有効性の検討を実施するという。

4.COVID-19のPCR検査の感度

治療の普及には、診断の確立が前提となる。マスコミでは時折、COVID-19のPCR検査感度が低いことが問題視され、感度が70%程度という意見も報じられた。
https://www.asahi.com/articles/ASN3S4J20N3CULBJ005.html?iref=pc_ss_date

日本でPCR検査の感度を調査したデータは発表されていないのに、感度が低いという報道は何を根拠としているのであろうか。検査の感度が低いことを理由に、PCR検査を実施していない国はない。

世界では、COVID-19のPCR検査を広く実施することが感染制圧の第一歩であることがコンセンサスであるが、政府の専門家会議も含めて、日本のみ検査の重要性を無視しているのは残念である。検査が広く実施されないために、多くの家族内感染や院内感染が生じ、死亡者も出ている。PCR検査を、少しでも疑いのある入院患者に実施しなければ、院内感染を防ぐことはできるわけがない。

5.終わりに

最近、アルビドールがCOVID-19に有効な可能性も示唆されているが、現時点では、COVID-19に対して、臨床的に有効性が証明された抗ウイルス薬はない(https://academic.oup.com/cid/advance-article/doi/10.1093/cid/ciaa272/5807944)。

COVID-19流行は日本の緊急事態であり、現状のままPCR検査も実施せずに、抗ウイルス薬治療もしないままであれば、いわゆる医療崩壊が起きて、多くの日本国民が死亡する危機が迫っている。高齢者やハイリスク患者では、ファビピラビルによる治療を早急に解禁すべきである。なぜなら、日本には200万人分のインフルエンザ治療量が備蓄されているからである。催奇形性の副作用も高齢者であれば問題ない。ファビピラビルはインフルエンザでは有効性が確立しているが、COVID-19では、有効性は確立していない。しかし緊急事態であり、治験の結果を待つことで死亡者を出してはならない。広くファビピラビル治療を実施しながら、有効性、安全性を確認する体制づくりが必要である。

さらに、COVID-19では高い院内感染率が報告され、医療従事者が重症化して死亡することもあり、医療従事者は重要なハイリスク群である。医療従事者のファビピラビルなど抗ウイルス薬による早期治療はCOVID-19対策として重要である。 

菅谷憲夫(神奈川県警友会けいゆう病院感染制御センターセンター長・小児科、慶應義塾大学医学部客員教授、WHO重症インフルエンザガイドライン委員)[新型コロナウイルス感染症(COVID-19)]

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