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【識者の眼】「アジアで必要ながん検診制度の確立」松田智大

No.5005 (2020年03月28日発行) P.55

松田智大 (国立がん研究センター企画戦略局国際戦略室長)

登録日: 2020-03-27

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がん「予防」は三つの段階があるとされる。エビデンスが確立していて、かつ日常生活で実行可能ながんにかからない(一次予防)方法は、今のところそれほど多くはない。しかし、がんに罹患しても、がん検診によって早期発見(二次予防)ができれば、死亡率を減らすことができる。

世界保健機関(WHO)と国際がん研究機関(IARC)によって推奨されているがん検診は、乳房、子宮頸部、大腸の三部位が対象となっている。

IARCが実施する「CanScreen5」は、世界のがん検診の状況を比較し、分析する計画である(https://canscreen5.iarc.fr/)。残念ながら、アジア諸国の調査は進行中で、サイトに一覧は掲載されていないが、ほとんどのアジア諸国で、いわゆる対策型のがん検診は実施されていない。タイ、マレーシアといった経済発展を遂げている国でも、任意でのがん検診は受診可能だが、住民ベースの対策型がん検診の実施には至っていない。受診対象者を特定するには住民登録が必要で、受診にはユニバーサルヘルスカバレッジの土台、また、精度管理のためには、がん登録との照合が必須であり、全ての仕組みを整えること自体が容易ではないからだ。

さらに受診勧奨には、アジア特有の文化的障壁が立ちはだかる。対策型の検診制度が整っている韓国では、上記3部位に加え、肝がん検診と、日本同様の胃の内視鏡検診とが実施されている。2000年代初頭にはシンガポール、台湾でもマンモグラフィによる対策型の乳がん検診が開始されているが、日本を含めた4国での対象開始年齢は40、45、50歳のいずれか、とまちまちで、また年齢上限の有無も分かれている。

このように、標準的ながん検診の実施は、先進国においても一筋縄ではいかない。わが国は、アジアの模範となる先導的な検診事業制度を整えつつ、培った知識と技術をアジア諸国に提供すべきであろう。

松田智大(国立がん研究センター企画戦略局国際戦略室長)[アジアのがん医療研究連携]

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