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【識者の眼】「体罰をなくすためには医療職が文化変革の先頭に立つ必要がある」小橋孝介

No.5000 (2020年02月22日発行) P.52

小橋孝介 (松戸市立総合医療センター小児科医長)

登録日: 2020-02-20

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2020年1月現在、62カ国で体罰を禁止する法律が制定されている。1960年代に北欧諸国から始まり、近年ではドイツやフランスといった欧州諸国も含め全世界で体罰を禁止する法律の制定が進んでいる。

国連の「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」として示された2030年までに達成すべき目標の中でも、「子どもに対する(中略)あらゆる形態の暴力および拷問を撲滅する」ことが挙げられた。日本はこの分野においてpathfinder countryとして、子どもに対するあらゆる暴力をなくすという目標達成を牽引する立場にいる。しかしながら、日本は国連子どもの権利委員会から、1994年に批准した子どもの権利条約の実施状況に関して度重なる勧告を受けている。まずは国内の状況を改善することが強く求められている。

子ども支援活動を行う組織「Save the Children Japan」が2018年に公開した全国2万人を対象とした意識調査の報告書では、60%がしつけとして子どもを叩くことを容認していた。このような現状にあって、本年4月に子どもに対する親からの体罰を禁止した改正児童虐待防止法が施行される。厚生労働省は法律施行に向けて「体罰等によらない子育ての推進に関する検討会」を立ち上げ、ガイドラインの作成を進めており、素案が昨年12月に公表された。

体罰をなくすためには、文化を変える必要がある。そのためには、国を挙げて体罰禁止に関わる大規模なプロモーションが欠かせない。しかし、ただ「体罰はよくない」「体罰をすると子どもの将来にこんな悪影響がある」というような、体罰に代わる子育ての代替案が示されないものでは文化を変えることはできない。たとえ医療専門職であっても、体罰によらない子育ての方法論を知らない者も多いのではないだろうか。

海外では、行動変容を促すエビデンスのある様々な体罰予防プログラムがすでに存在し、医療専門職が主導して体罰に代わる子育ての代替案を示している(詳細はElizabeth T. Gershoff,et al ed:Ending the Physical Punishment of Children:A Guide for Clinicians and Practitioners.American Psychological Association, 2019)。

これから体罰のない世の中をつくっていく中で、私達自身がこのようなプログラムを学び、文化変革の先頭に立っていかなければならない。

小橋孝介(松戸市立総合医療センター小児科医長)[児童虐待][子ども家庭福祉]

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