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【識者の眼】「119番、本来の意味、目的を考える」太田祥一

No.5000 (2020年02月22日発行) P.20

太田祥一 (医療法人社団 親樹会 恵泉クリニック院長)

登録日: 2020-02-24

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心肺蘇生法の目的は、止まった心臓の動きを再開させることだけでなく、社会復帰、つまり今までどおりの生活ができるようにすることである。この目的を達成するためには、まず、現場で心肺停止になったその場を発見した人(目撃者)が、助けを呼び(119番通報等)、すぐに、正しい(速く、強く、絶え間ない)胸骨圧迫(バイスタンダーCPR)とともにAEDを用い、その後救急隊が引き継いで、救急救命士が高度な救命処置を行い、救命救急センターに搬送し、さらに体外循環式心肺蘇生(extracorporeal cardiopulmonary resuscitation:ECPR)、これは、経皮的心肺補助装置(percutaneous cardiopulmonary support:PCPS)等を用いた蘇生法、等、積極的、高度な蘇生と、それに続く集中治療、のそれぞれがスムーズに連携(救命の連鎖)することが重要とされる。このように、救命率、社会復帰率を上げるために進化を続けた結果、病院前救護(プレホスピタル)からの現在の救急医療体制ができあがってきた。

119番とは、本来、蘇生、救命の要請のための番号であるが、時代は超高齢社会になり、そのなかで必ずしも「119番=蘇生、救命」ではないことが起こり始めている。蘇生を望まれていない方に救急要請された時に、その方が心肺停止(CPA)なら当然のことながら上述したように救急隊が蘇生を始めるが、その際に家族等が本人の意思に沿って蘇生を止めて欲しいと救急隊に訴える、といったようなことである(在宅新療0-100「高齢者の蘇生中止」2019年6月号)。これには、救急要請する方が心肺停止の判断ができない、あるいは難しい、また、かかりつけ医に連絡する前に救急要請してしまう─等の、社会的、電話する側の理由、一方で救急隊は、自身の判断で心肺蘇生を止めることができない、その人が蘇生を希望されていないという意思が確かなものかの判断ができない─という様々な理由があると思われる。

このような課題の対策として、東京消防庁では、ACP(advance care planning)が行われている成人の心肺停止で、その成人が人生の最終段階で、①心肺停止の実施を望んでいない、②この意思決定の際に想定された症状とその時の症状が合致している、ことを救急現場でかかりつけ医等に確認できれば心肺蘇生を中断することになった(https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/kk/data/tosin.pdf)。蘇生を望まない意思が示されるまではもちろん心肺蘇生を続ける。

このように時代が超高齢社会になるにつれて、救急対応に蘇生を望まないという本人の意思が反映されるようになった、というのは大きな変化であり、そして、その意思の確認のために、必ずしも文章を必要としない、というのは現実的な対応であると思われる。また、その際に意思を尊重するためにかかりつけ医の果たすべき役割もはっきりした。東京でのこの対応は2019年12月16日朝9時から始まった。

この変化が、これからの時代の119番の意味、病院前からの救急医療体制のあり方をすべての方々が自身のこととして考える機会になれば良いと思う。終活、人生会議の話題として拡がることを期待する。

太田祥一(医療法人社団 親樹会 恵泉クリニック院長)[超高齢社会の救急対応][東京消防庁]

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