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深頸部膿瘍[私の治療]

No.4999 (2020年02月15日発行) P.48

塚原清彰 (東京医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科主任教授)

登録日: 2020-02-14

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  • 深頸部膿瘍は頸部の浅頸筋膜や深頸筋膜の組織間隙に膿瘍が形成された状態で,重症感染症である。多くは深頸部蜂巣炎の悪化による。膿瘍の悪化に伴い,敗血症,縦隔炎,気道閉塞などの致死的状態になりうる。
    原因は,急性口蓋扁桃炎などの上気道感染,齲歯などの歯性感染,異物等,多岐に及ぶ1)。原因不明なことも少なくない。糖尿病の既往,ステロイドホルモン製剤や免疫抑制薬の投与は危険因子となりうる。

    ▶診断のポイント

    高熱,激しい咽頭痛・頸部痛,頸部皮膚の発赤・腫脹など,通常の上気道炎よりも症状が強い。造影頸部CTで深頸部に膿瘍形成が確認できれば確定診断となる。

    CT撮影時は縦隔炎の併発を確認するために,胸部も同時に撮影することが望ましい。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    問診で先行する上気道炎や齲歯の有無,糖尿病の既往,ステロイドホルモン製剤や免疫抑制薬の投与の有無を確認する。糖尿病を認める場合,血糖コントロールが重要となる。ステロイドホルモン製剤や免疫抑制薬は当該診療科と相談の上,中止の可否を判断する。

    喉頭浮腫を伴うことも多い。本疾患の可能性を疑った場合,気道の確認が必須である。内視鏡を用いて口腔咽喉頭を確認する。喉頭浮腫などの気道狭窄や,他覚的喘鳴を認めた場合,早急の対応が必要である。

    採血で白血球とCRPの著明上昇を認める。また,細菌性疾患のため,白血球分画は左方偏移する。糖尿病の有無を評価するために血糖値,HbA1c値も測定する。診断には造影CTが必要であり,腎機能評価も行う。また,血液培養検査を行い,敗血症併発の有無を鑑別する。

    造影頸胸部CTにて診断と評価を行う。膿瘍を形成している場合,周囲に造影効果を伴う低吸収域を認める。造影剤を用いない場合,蜂巣炎との鑑別は困難である。頭頸部領域には傍咽頭間隙,咽頭後間隙,頸動脈間隙等,多くの間隙がある。咽頭後間隙と椎周囲間隙の間を危険間隙という。病変が危険間隙に及んだ場合,縦郭に波及しやすい。手術を含めた治療方針決定のためには,膿瘍がどの間隙にあるかの評価が重要である。蜂巣炎であっても,2間隙以上に広がっている場合,膿瘍化する危険性が高くなる2)

    起炎菌は口腔内常在菌が多い。好気性菌ではStreptococcus属,Staphylococcus属,嫌気性菌ではBacteroides属,Peptostreptococcus属などが多い。起炎菌が同定されるまではこれらを目的としたエンペリックセラピーを行う。外切開による排膿を行った場合,必ず細菌培養検査を行う。嫌気ポーターの使用も検討する。

    軽症例では保存的に治療可能な症例もある。しかし,深頸部膿瘍を形成している場合,外切開による排膿が原則となる。技術的問題から切開排膿術を先延ばしし,漫然と抗菌薬による保存的治療のみ行うことは避けるべきである。保存的治療を選択した場合,膿瘍や喉頭浮腫の悪化に配慮した,慎重な経過観察が必要である。切開排膿を行った場合,気管切開術の併用が安全である。深頸部膿瘍症例は,皮膚・軟部組織の浮腫性変化,気管偏位などのため,気管切開術の難度が高い。気管内挿管後の気管切開術が望ましい。また,挿管困難と判断した場合,輪状甲状間膜切開術を検討する。切開排膿後は,膿瘍のあった間隙にペンローズドレーンを留置し,洗浄処置ができるようにしておく。

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