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痛風発作と尿酸値の関係は?

No.4985 (2019年11月09日発行) P.58

谷口敦夫 (東京女子医科大学膠原病リウマチ内科教授)

登録日: 2019-11-07

最終更新日: 2019-11-05

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50歳代,男性。右第一趾(metatarsopharangeal:MTP)関節の発赤,腫脹,疼痛で来院しました。既往歴に特記事項はありません。血清尿酸値は4.5mg/dLと正常です。
(1)一見して痛風の所見でしたが,他の鑑別疾患も考えるべきでしょうか。診断時に痛風でも尿酸値が基準値以下のことがあるのでしょうか。
(2)第一趾MTP関節が痛風の好発部位ですが,時に足背や足関節周囲の発赤,腫脹,疼痛で,痛風ではないかという症例に遭遇しています。こうした部位の痛風に関しては,明らかに関節内に尿酸結晶が生成沈着したとは言えないような気がします。関節以外にも尿酸結晶ができるのでしょうか。またできるとすればどういうメカニズムでしょうか。
(3)痛風はほとんどが男性で,どうして女性は少ないのでしょうか。理由を教えて下さい。
(4)高尿酸血症は生体内において高血圧,腎疾患,心疾患などに悪影響を及ぼすと言われています。生化学的観点からその理由をご教示下さい。
(秋田県 F)


【回答】

【発作時には間欠期よりも血清尿酸値が低下することが知られている】

(1)鑑別疾患

痛風発作時には血清尿酸値が痛風の間欠期よりも低下することが知られています。その機序としては痛風発作に伴うインターロイキン6の上昇やコルチゾールの関与が指摘されています1)。ご指摘の症例ですが,過去の報告のデータをみると血清尿酸値4.5mg/dLでもありうるとは思います2)。一方で,尿酸降下薬を服用していない場合に,痛風発作による炎症が普段の血清尿酸値をどの程度低下させるかについての定量的な研究はありません。変形性関節炎,関節リウマチ,乾癬性関節炎,回帰性リウマチ,急性CPP結晶性関節炎(いわゆる偽痛風)が鑑別に上がります。

(2)尿酸塩結晶の沈着

まず,尿酸は体液の生理的条件下(pH7.4)では1価の陰イオンであり,体内で最も多い陽イオンであるNaとともに尿酸一ナトリウムとして存在します。これを尿酸塩と言います。したがって,関節内に沈着するのは尿酸塩結晶であって尿酸結晶ではありません。

尿酸塩結晶は関節周囲組織では滑液包や腱鞘滑膜,靱帯,腱にも沈着します3)。このため尿酸塩結晶による腱鞘滑膜炎や滑液包炎を起こすことがあります。これらの部位への沈着のメカニズムは関節内の沈着と変わらないと思いますが,関節内に比べてメカニカルな要因や組織の変性の関与がより強いかもしれません。しかし,それを証明した報告はないと思います。痛風結節は皮下などにでき,時に炎症を伴う例を経験します。これを考えると腱内に沈着した尿酸塩結晶でも急性炎症を起こしてよいと私は考えています。ただ,沈着があるからといって,高尿酸血症症例の急性関節炎あるいは関節周囲炎が常に尿酸塩結晶によるとは限らないという点には留意すべきと考えます。

(3)痛風が男性に多い理由

血清尿酸値は小児期には男女ともに低いのですが,思春期以降,男性で上昇し始めます。女性は成人期では一貫して低くなりますが,閉経期を過ぎると上昇し,男女差は縮まります。痛風は高尿酸血症を生化学的基盤として発症しますので,これが痛風の罹患に男女差がある大きな理由と考えています。

その理由として,エストロゲンには尿酸排泄促進作用があることが挙げられます4)。女性も閉経期を過ぎると痛風発作を起こす頻度が増えますが,それでもやはり痛風は男性に多い疾患です。なお,女性痛風が増加しているというエビデンスはわが国では今のところありません。

(4)高尿酸血症が高血圧,腎疾患,心疾患などに及ぼす影響

高尿酸血症と高血圧,慢性腎臓病,心不全などとの関連が指摘されています。最近では尿酸トランスポーターを介して血管内皮細胞に取り込まれた尿酸がその原因ではないかと考えられているようです5)6)。NOは血管弛緩因子として知られていますが,血管内皮細胞に取り込まれた尿酸はNO合成酵素のリン酸化を阻害しNO産生の低下に結びつくと考えられています。また,局所的にレニンアンギオテンシン系を活性化することも影響すると考えられています。これらは血清尿酸値が高血圧などの危険因子,あるいは予測因子であるとの疫学的な調査結果を支持するメカニズムの1つと考えられています。一方,疫学的に心血管イベントとの関連に否定的な疫学調査も少なくありません。

慢性腎臓病については,最近血清尿酸値を低下させるとeGFRが維持されるとの前向き研究が発表されています7)。尿酸と臓器障害との関連には共通するメカニズムとともに臓器に特異的な状況もあるのかもしれません。

【文献】

1) Urano W, et al:J Rheumatol. 2002;29(9):1950-3.

2) Logan JA, et al:Ann Rheum Dis. 1997;56(11): 696-7.

3) Dalbeth N, et al:Ann Rheum Dis. 2013;72(9): 1545-8.

4) Antón F, et al:Metabolism. 1986;35(4):343-8.

5) 丸橋達也, 他:高尿酸血症と痛風. 2018;26(1):38-41.

6) 大坪俊夫:高尿酸血症と痛風. 2018;26(1):53-9.

7) Sircar D, et al:Am J Kidney Dis. 2015;66(6): 945-50.

【回答者】

谷口敦夫 東京女子医科大学膠原病リウマチ内科教授

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