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【OPINION】イスラム国と接する北イラクへの医療協力

No.4753 (2015年05月30日発行) P.14

鈴木隆雄 (熊本赤十字病院国際医療救援部)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-02-17

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  • 熊本赤十字病院は以前から北イラクと医療交流を重ねてきた。「イスラム国」問題が2014年6月より浮上、それが2カ月もせずして北イラク周辺からイラク首都バグダッド近郊まで占領し、短期間に多くの国内避難民を生み出した。特に、北イラクのシリア国境部シンジャリ地方からは、同年8月、2週間たらずで50万人以上の避難民が北イラク西部の都市ダホーク周辺に流れ込み大混乱となった(図)。そのダホークの救急病院から麻酔応援の要請があり、著者が現地に赴くこととなった。

    イスラム国出現前後の北イラク事情

    2003年のイラク戦争後、北イラクはクルディスタン地方政府(KRG)を設立し、バグダッド中央政府からはほぼ独立した地域となっており、中央政府の支配地域とは比較にならないほど政治・経済的に安定してきていた。

    イラクは世界第5位の石油埋蔵量の国だが、イラク戦争後、KRG地域内で石油採掘が始まると新たな埋蔵地が次々発見され、イラク内で最も石油埋蔵量の多い地域となってきた。そのためか、米大手石油会社エクソン・モービルはそれまでバグダッドに置いていたイラク本部を、2013年にKRG首府のアルビールに移した。

    イラクの主な国家収入は石油収入で、国家収入の17%をKRGが中央政府から受け取ることになっている。ところがKRGが、地域内の石油収入を中央政府に渡さず直接KRGに収めようとした。当然中央政府はそれを拒否し、2013年後半からはKRGへの17%支払いを停止した。KRGから輸出されている石油の収入は、トルコの銀行に蓄えられているが、その支払いをKRGに渡すのは違法として中央政府がストップをかけたため、KRGは受け取れていない。そのため2014年に入るとKRGは予算が枯渇し、公務員給与も滞りだした。以上の社会事情のところに、ダホークに大量の国内避難民が流入したわけだ。

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