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プロテインS(PS)低下と不育症

No.4947 (2019年02月16日発行) P.58

出口雅士 (神戸大学地域医療ネットワーク学特命教授)

登録日: 2019-02-17

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【抗凝固療法は必要か】

抗リン脂質抗体(aPL)が流死産の原因と認識された後,プロテインS(PS)低下を中心に血栓性素因と不育症の関連が疑われた。ただし,血栓歴のある女性でも流死産は増加せず,血栓性素因と不育症との関連は不明点が多い。PSに存在するEGF like domainに対する抗体が胎盤に悪影響を及ぼすとの推論もある。PS欠乏の頻度は一般日本人で2%,日本人不育症女性で7.4%とされる。欧米のPS欠乏は中後期以降の流死産の要因と考えられるが,日本では多くが初期流産を繰り返す患者である。PS低下と初期流産の関連について結論は出ていないが,日本でも妊娠高血圧症候群との関連が報告されている。なお,妊娠後早期にPS活性,遊離抗原量は低下するため,妊娠中のPS値を非妊時の基準値で評価することには注意を要する。

PS低下妊婦の治療は,欧米では妊娠中後期の流死産との関連から,低分子量ヘパリンが有用とする小規模報告が多い。一方,初期流産の頻度が高い日本の不育研究班の調査では,低用量アスピリン(LDA)単独療法の有用性が示唆されている。筆者らも,aPL陰性のPS低下不育症女性で,LDA単独とLDA+未分画ヘパリン(UFH)併用療法との間で,妊娠帰結と産科異常に差はないことを報告した1)。現時点では十分なエビデンス(保険適用)のある治療指針はなく,PS低下を伴う不育症患者には,PS遺伝子変異,子宮内胎児死亡や死産歴,aPL陽性等,その他のリスク要因があればLDA+UFHを,リスク要因がなければLDAを患者の同意を得て研究的治療として実施することが考慮される。

【文献】

1) Shinozaki N, et al:Gynecol Endocrinol. 2016;32 (8):672-4.

【解説】

出口雅士 神戸大学地域医療ネットワーク学特命教授

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