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救急受け入れ不能例を減少させるための取り組み クロスSWOTとバランスト・スコアカード(BSC)を利用して [学術論文]

No.4808 (2016年06月18日発行) P.46

志賀淳治 (津田沼中央総合病院病理センター長)

住谷真由美 (津田沼中央総合病院看護部外来師長)

西田勝則 (津田沼中央総合病院院長)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-01-24

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  • 病院における救急受け入れはその所在地区に対する責務であるが,限られた設備と人的能力のために救急受け入れ不能となる事例がどうしても出てしまうのが多くの病院に共通する悩みであろう。当院としても積年の課題であったこの問題の解決にあたり,企業が事業戦略やマーケティング計画に利用するクロスSWOT(SWOT)とバランスト・スコアカード(BSC)法を用いて対応した。2012年以来ほぼ4年にわたり活動し,救急受け入れ率を90%にすることができた。

    1. 当院の実情

    当院は上尾中央医科グループ(AMG)傘下の千葉県東葛南部地域の総合病院である。ベッド数は300であり,専門医が統括する救急部門は存在しない。毎週水曜日と月2回の金曜日に二次救急を担当しているが,担当日は内科,外科ないし脳神経外科および整形外科の医師がそれぞれ1名当直し,それ以外の曜日は原則として2名(内科系,外科系)の当直医が待機している。救急を担当する医師数は常に若干の変動があるが,内科系常勤医が10名,外科系常勤医が16名,その他3名である。非常勤の当直医は変動するが,のべ33名おり,これらの医師が当直を担当している。救急受け入れ数は300~500件/月であり,年齢分布では70~80歳代が一番多い。夜間の職員数の割合は日中に比較して4.4~5.0%である。一方,入院患者に占める救急患者の割合は20~30%に及び,救急受け入れ率を上げることは地域医療に対する責任と同時に,病院の財政面からも重要である。

    2. 取り組みステップⅠ:救急受け入れに関する要因の分析と準備

    SWOTによる分析(表1)に示すように外部環境の機会と脅威,内部環境の強みと弱みの分析からいくつかの項目が挙がった。職員が自力で対応できる問題点は以下のごとくである。外部環境の脅威としては,医師の専門分野が細分化され,幅広い患者の訴えに対応できない,当院の弱みとしては,救急台帳が定量的に分析できるような形式になっていない,非常勤の当直医が多い,などがある。一方,当院の強みとしては,学習機会に恵まれて,職員が意欲的であり,規則遵守の習慣が徹底されていることが挙げられる。
    こうした分析に従って,以下の戦略が立てられた。
    ①救急台帳の救急受け入れ不能の理由を明らかにし,定量化して分析可能なものにする。
    ②当院の人的能力として対応できる救急患者の主訴を明らかにし,それに対応して当院独自の救急マニュアルを作成する。
    ③研修医を救急においてどのように活用するかを考える。
    ④医師と看護師の救急勉強会を精力的に行う。
    ⑤病院と非常勤の当直医との意思疎通を徹底する。


    上記の戦略を実現するためのアクションプランと評価基準をバランスト・スコアカード(BSC)の考え方により具体的に計画した(表2)。救急受け入れ不能事例の原因と対策を検討する病院長直属の7名の医師による救急事例検討委員会を設置し,また医師と看護師における義務として定期的な救急勉強会も計画した。目標は救急受け入れ不能率を10%以下にすることとした。

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