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異なる現場の対話から考える,これからの感染症診療『jmedmook104 感染症Q&A』【書評】

登録日: 2026.10.28 最終更新日: 2026.10.28

大曲貴夫 (国立健康危機管理研究機構 国立国際医療センター副院長/国際感染症センター長)

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本書は,市中でプライマリ・ケアに関わる医師の感染症に関する疑問に対して,感染症専門医が答えるという形式で構成されています。このような問いに専門医が答えることは,実は容易ではありません。私自身,在宅診療に携わる友人と,現場で直面する一連の感染症の課題について,よい対応方法を話し合う機会がありましたが,自分がその場の状況や文脈をよく理解していないために,考えを整理することが難しいことを痛感しました。

医療は,患者の状態,患者自身のこれまでの生活のあり方と,現場のその時々のあり方に規定されており,これを理解せずに最適な答えを導くことはできません。専門医が持つ知識や経験の多くは,特定の医療機関や特定の患者・患者集団から得られた事実に基づいています。そこから一定の解釈を導くことはできます。

しかし,それらの事実は個別のものであるので,その事実に対する解釈が別の医療現場にそのまま当てはまるとは限りません。むしろ,異なる環境では適用が難しいことばかりです。あらゆる診療現場や患者に共通する万能の事実というものは存在せず,だからといって1人の医師がすべての状況に対応できる事実を自分で経験するなどということも不可能です。人間が個人でできる経験には,限界があります。

だからこそ重要なのは,自らとは異なる現場で事実を積み上げてきた医師たちとの対話です。他の場で得られた事実を共有し,それぞれの解釈を示しながら,討論して目の前の患者にとって最善の対応を考えていく。その営みを再現しているところに,本書の価値があります。本書では,まず症例とともに研究による事実が示され,次にその解釈が検討されます。そして,プライマリ・ケア医と専門医のそれぞれの意見をふまえながら,「では実際にどうするか」という実践的な方針の立案へ,内容が展開されていきます。

現在,医療の場は大きく変化しており,診療所,介護施設,福祉施設,さらには患者の自宅へと広がっています。医療の重心は確実に地域へ移りつつあります。新しい課題が当然生まれてきます。このような時代において,地域で診療する医師と感染症専門医との対話はこれまで以上に重要である,と私は考えています。本書はその対話の実践例を示すものであり,医療が変わっていく中で感染症診療をどう考えていくかについて示唆を与えてくれます。これからの医療を模索するための手引きとして,多くの医療者に薦めたいと思います。

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