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【識者の眼】「夏のインフルエンザ(Ⅱ)─原因の推測とワクチン接種について」西村秀一

登録日: 2026.10.16 最終更新日: 2026.10.16

西村秀一 (独立行政法人国立病院機構仙台医療センター臨床研究部前ウイルスセンター長)

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本稿を書いている2026年9月下旬、マスメディアは、この時期にはめずらしいインフルエンザの流行と、その原因やワクチンに関する話題を頻繁に取り上げている。原因については、ある人はインバウンド、そして暑い夏における、冷房のために窓を閉め切った換気のない生活を挙げ、ある人は温暖化の影響を挙げている(熱帯・亜熱帯では年間を通してインフルエンザが存在する)。だが、インバウンドも冷房生活も温暖化も、2026年に始まった話ではではない。あるいは、ウイルスの抗原変異の可能性を考える人もいるかもしれない。

筆者らも8月のお盆明け頃から、A(H1N1)pdmウイルスを分離していた。そして、それらの遺伝子に東南アジアで分離されたウイルスと同じ特徴があること、はとらえていた。しかし、それで流行が大きく広がるとは考えていなかった。2025年における夏−秋のインフルエンザの小流行では、H3亜型サブクレードKの出現で説明したがる向きが多かった。筆者はそれに苦言を呈したものだが(No.5310)、結局、その後、それが途切れない流行を起こすことはなかった。そのときどきのちょっとした目新しい所見に振り回され、大局を見誤っていたよい例である。大きな変異などなくても普通に広がる可能性はある。2026年は結局、その通りになり、小・中学校の夏休み明けから拡大が始まった。

話を戻す。インバウンド説は筆者も考えた。だが、それはウイルスの地域への導入だけの説明である。これまでも夏に輸入症例があることはめずらしくなかったが、そこから広がることはなかった(No.5297)。小さなアウトブレイクが流行にまでなるかどうかは、感染伝播が継続できるかどうかによる。その点で、冷房生活や温暖化は考慮に値するかもしれない。だが、熱帯・亜熱帯化がなぜ流行の維持・拡大に働くのか、の説明はない。その説明努力が、今後大事になってくる。

次にワクチン。本連載(No.5297)でも、今後、夏の流行が定着してしまった場合「新たな悩み」として、ワクチン接種のタイミングとワクチン株の選択の問題が生じるとした。今、世の中では、ワクチン接種の前倒しの話で持ちきりである。専門家らは、「前回のワクチン接種から6カ月が経っており、“ワクチンの効果は半年で落ちるので”、なるべく早くワクチン接種をすべき……」とし、それにつられたかのように、各自治体が一斉に定期接種の前倒しに傾いている。ワクチンが不足する可能性が報道され、そうなるとまた、それにつられるようにワクチン接種に走る人たちがいて、その様子がテレビで報道されている。危うい連鎖である。

筆者がここで問いたいのは、先の専門家の言説は本当に正しいか、ということである。それが本当なら、今後ワクチンは年2回接種せねばならなくなる。だが、少なくとも筆者が持つデータでは、一般成人では、ワクチンで一度上げた抗体価が、たった半年で下がることはない。現行のインフルエンザワクチンは、効き目についての議論はあっても、そこまでヘボではない。ただし、高齢者のデータは持っていない。高齢者が念のために早めにワクチンを打ち始めることと、これまで感染やワクチン接種の経験がなくインフルエンザに対してナイーブな小児が早めに打ち始めることについては、反対しない。

本連載(No.5297)で、筆者はワクチンに関するこれまでの知見の再確認の必要性を述べた。ここでも、それを強調したい。

西村秀一(独立行政法人国立病院機構仙台医療センター臨床研究部前ウイルスセンター長)[感染症][インフルエンザ]

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