
❶ はじめに─変貌する片頭痛診療
片頭痛は,ただ単に頭が痛いだけではなく,疾病負担の大きい慢性神経疾患であるとともに,全身性疾患でもある。小学生になる頃に乗り物酔いが始まり,一部が腹痛発作(腹部片頭痛)を繰り返し,月経(女性の場合)の始まる小学校の高学年あるいは中高生(多くは30歳まで)で片頭痛を発症する。予兆の症状とともに,前兆として両眼性/単眼性の閃輝暗点・半盲・一過性黒内障などの視野異常,一過性の失語・感覚障害・片麻痺,さらに,変形視・小視症・大視症(不思議の国のアリス症候群)やめまいなどが起こる。また,随伴症状として悪心・嘔吐といった消化器症状,光過敏・音過敏・臭過敏などが見られる。片頭痛患者は雨が降るのがわかったり(雨が降る前に頭痛が起こる),フィリピン沖に台風が発生すると頭が痛くなったりすることがある。発作間欠期にも症状や問題を生じてくる。
令和の時代になり,①7製剤・9効能および効果の新薬の上市あるいは上市予定(2021〜2026年),②「片頭痛サイクル」の提唱(2022年),③薬剤の使用過少による頭痛(medication underuse headache:MUH)という概念の提唱(2024年),④国際頭痛学会の2つのポジションステートメント(2025年)など,片頭痛診療が大きく変貌している。
❷ 病態生理と最新の治療コンセプト
(1) 片頭痛サイクル
図1,表1に「片頭痛サイクル」1)2)を示す。ここに記載された症状を理解しておくと,多くの片頭痛患者の疑問に答えることができる。
効果的で忍容性のある(effective and tolerable:E-T)急性期治療薬と予防薬の探索,誘発・増悪・慢性化因子対策を行う。頭痛日数を減少させるとともに発作間欠期の症状も軽減させ,crystal clear dayを増やすことが重要である。


片頭痛発作は,①prodrome(予兆/前駆症状),②aura(前兆),③headache(頭痛発作),④postdrome(後発症状)の4つの段階にわけられているが3)4),病態全体としては⑤interictal phase(発作間欠期)を含めた5つの段階としてとらえられることもあり,頭痛のない間欠期にも症状がある(図1,表1)1)2)。①予兆期には視床下部異常,②前兆期には皮質拡延性抑制(cortical spreading depression:CSD),③頭痛発作期には三叉神経系異常活性化における末梢性感作から中枢性感作〔チャネル/イオンの異常,カルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin gene-related peptide:CGRP)などのニューロトランスミッターの関与〕への移行,④後発症状期には残存異常,⑤発作間欠期には慣れの欠如,下降性疼痛抑制系機能異常があり,月経や天候変化などの誘引によって発作間欠期から頭痛発作への移行が促進される(図2)2)。

(2) 片頭痛の病態
CGRPは三叉神経のC線維から放出され,隣接する硬膜血管やAδ線維に分布している受容体に結合し,感作を誘導する。それによって,神経の興奮性を高め,硬膜血管では血管拡張や血漿成分の血管外漏出が起こる(図3)5)。続いて,肥満細胞の脱顆粒が起こり,神経原性炎症が引き起こされる。その刺激は痛みのシグナルとして脳幹の三叉神経から,視床,大脳皮質へと伝わり,頭痛として認識される(図4)6)。


(3) 片頭痛治療薬の分類
片頭痛治療薬は急性期治療薬と予防薬に区分されるが,CGRP受容体拮抗薬であるゲパントは急性期治療と予防の両者の効果があり,薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛,medication-overuse headache:MOH)をきたしにくいと言われている画期的で摩訶不思議な薬剤である。かかりつけ医でも処方でき,片頭痛診療の大きな変革をきたすものと期待している(図5)。

(4) 片頭痛予防の新基準
2025年2月の国際頭痛学会のポジションステートメント「片頭痛予防のためのより高い基準の設定」では,片頭痛フリー,または片頭痛もしくは中等度/重度の頭痛の発症日数の大幅な減少といった最適な結果をめざした野心的な治療目標設定で,片頭痛予防の水準を向上させることを提唱している。なお,中等度のコントロールは月4~6日の片頭痛または中等度~重度の頭痛,コントロール不十分は月に6日を超える片頭痛または中等度~重度の頭痛と定義されている。
ステートメントをもとに図6を作成した7)。

