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【識者の眼】「『最大45%は予防できる』の読み方─WHO認知症リスク低減ガイドライン改訂」内田直樹

登録日: 2026.09.02 最終更新日: 2026.09.02

内田直樹 (医療法人すずらん会たろうクリニック院長)

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2026年7月15日、世界保健機関(WHO)が「認知症リスク低減ガイドライン」を7年ぶりに改訂した。ニュースリリースの見出しは、「認知症リスクの最大45%は予防または遅延できる可能性がある」だ。これは、2024年にLancet誌の専門家委員会が示した14の修正可能なリスク因子の人口寄与割合をふまえた数字だ1)

変更点は多い。2019年版で「エビデンス不十分」とされた社会活動への介入が、今回初めて条件付き推奨になった。屋外と室内の大気汚染への曝露低減が新規に推奨された。65歳以上の閉経後女性に対する更年期ホルモン療法は、認知機能低下・認知症のリスク低減を目的としては「推奨しない」。これも新設の項目だ。本連載(No.5338)でも取り上げた、サプリメントを認知症予防目的で使わないという強い推奨は維持された。

ただ、推奨の一覧表からは見出しとは別の印象を受ける。認知症リスク低減を目的とした強い推奨(strong)は3つしかない。認知機能正常者における身体活動、禁煙介入、そしてサプリメントを「使わない」ことだ。残りの推奨の多くは条件付きで、エビデンス確度はlowかvery lowのものが多い。一方、今回初めて評価対象となった睡眠、うつ病、視覚障害、脳卒中後、頭部外傷後などは、認知症リスク低減を目的とした介入について「エビデンス不十分」で推奨が見送られた。

目玉として新設された多領域介入の項も、中身は率直だ。運動や食事、認知活動、社会活動など、複数のリスク因子に個々の状況に合わせて同時に働きかける、FINGER試験以来の流れを汲む新規推奨だ。根拠となった44のランダム化比較試験(RCT)のメタ解析では、認知機能正常者における認知機能への効果は小さく、認知症発症そのものを減らす効果についても明確ではない。それでもWHOは、複数のリスク因子を同時に扱うことの合理性や介入の安全性などをふまえ、条件付き推奨とした。エビデンス確度はmoderate〜highとされており、単純に「効果がない」と読むべきものでもない。

45%という数字と、この推奨表の間には距離がある。人口寄与割合はあくまで理論値であり、ある因子が認知症と関連することと、その因子に介入すれば認知症を減らせることは別物だからだ。寄与割合の大きさで注目される難聴でさえ、補聴器の推奨は今回も条件付きのままで、以前の本連載(No.5323)で論じた構図は変わっていない。

外来や在宅の現場で、家族から「何をすれば認知症を防げますか」と聞かれることはめずらしくない。この改訂を読んでも、私の答えの背骨は変わらない。体を動かすこと、たばこをやめること、認知症予防をうたうサプリメントに安易にお金を使わないこと。その上で、人との関わりを保つように勧める。眠りの相談には睡眠障害の治療として応じつつ、「認知症の予防効果はまだ証明されていない」と正直に添える。誇張しない説明こそ、45%という見出しがひとり歩きしがちな今、臨床医に求められる仕事だと考えている。

今回の改訂で最も印象に残ったのは、大気汚染の項の注記だった。「きれいな空気の確保は、最終的には個人ではなく社会の責任である」。WHOも、大気汚染の低減には都市計画や交通政策、クリーンエネルギー政策など、個人の努力を超えた取り組みが必要だとしている。45%は個人の努力目標ではなく、社会全体の伸びしろを示す数字として読むのが正確だろう。

【文献】

1) Livingston G, et al:Lancet. 2024;404(10452):572-628.

内田直樹(医療法人すずらん会たろうクリニック院長)[認知症][認知症リスク低減ガイドラインWHO

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