関節痛対策のサプリメントとして高齢者に広く利用されているグルコサミンが、認知症の進行を加速させる可能性がある。2026年6月にNature Metabolismに掲載されたフロリダ大学の研究報告である。
研究グループは、空間メタボロミクスやグライコミクスなどの解析を統合し、アルツハイマー病の脳では「過剰グリコシル化(hyperglycosylation)」が病態を駆動していることを示した。グリコシル化関連酵素の発現を抑制したマウスでは認知機能が改善したが、一方で、グルコサミンを経口投与したマウスでは認知機能の悪化が認められた。さらに、6万5000人超の電子カルテを用いた後ろ向き解析では、軽度認知障害(MCI)患者において、グルコサミン服用群は非服用群と比べ、認知症への進行リスクが25%高かったと報告されている1)。
ただし、この結果を過度に一般化してはならない。一般集団では、グルコサミンの継続使用が認知症リスクの低下と関連したとする先行研究もあり2)、今回の知見はそれらを否定するものではない。認知機能低下が既に始まっている段階では、グルコサミンが脳内の糖鎖修飾経路を過剰に活性化し、病態を加速させる可能性があるということである。“一般集団に有益”と“認知機能低下者では有害”は、十分に両立しうる。
同じ物質でも、誰に投与するかによって影響が逆転する。その考え方は、硝酸塩に関する研究にもそのまま当てはまる。
デンマークの大規模コホート研究(5万4804人・約27年間追跡)3)では、植物由来の硝酸塩摂取量が多いほど認知症発症率は低下した。一方、動物由来、食肉加工品添加物由来、水道水由来の硝酸塩ではリスク上昇が認められた。植物由来の硝酸塩は一酸化窒素(NO)を介して血管や神経系を保護すると考えられるのに対し、食肉加工品由来では神経変性との関連が指摘されるN-ニトロソアミンが生成されやすい。ほうれん草や小松菜に含まれる硝酸塩と、ハムやソーセージの製造に用いられる亜硝酸塩は、体内での代謝や作用が大きく異なる。「何を摂るか」だけでなく、「何から摂るか」が重要なのである。
こうした知見をふまえると、WHOが2019年に公表した『認知症リスク低減ガイドライン』4)で、ビタミンB、ビタミンE、多価不飽和脂肪酸、複合サプリメントを認知症予防目的として推奨しないと明記した姿勢は、現在でも示唆に富む。
在宅診療の現場でも、複数のサプリメントを常用している患者に出会うことはめずらしくない。“良いはずのもの”が、その人の状態によっては“害”へ転じることもある。この認識を持った上で服用歴を確認し、サプリメントを含めた生活背景まで評価することが、これからの臨床家には求められているかもしれない。
【文献】
1)Hawkinson TR, et al:Nat Metab. 2026;8(6):1410-25.
2)Zheng J, et al:BMC Med. 2023;21(1):114.
3)Bondonno CP, et al:Alzheimers Dement. 2025;21(12):e70995.
4)World Health Organization:Risk reduction of cognitive decline and dementia:WHO Guidelines.
https://www.who.int/publications/i/item/risk-reduction-of-cognitive-decline-and-dementia
内田直樹(医療法人すずらん会たろうクリニック院長)[サプリメント][認知症]