3 「入院初日」に医師がやるべきこと
では,医師─特に研修医・専攻医は,退院支援において,具体的に何をすべきか。
実は,制度の面でも「早期から動く」ことが求められている。多くの病院が算定している「入退院支援加算」では,入院後おおむね3日以内(加算の種類により7日以内)に,退院が困難になりそうな要因を抽出することが求められている。制度自体が,「入院早期から動け」と設計されているのだ。
では,研修医が入院初日に意識すべきことは何か。私は,次の3つだと考えている。
①退院困難要因の早期スクリーニング
入院した患者さんを診たとき,「この人は,スムーズに退院できそうか?」を考える。具体的には,次のような要因に注意する。
•高齢,特に独居や高齢世帯
•要介護状態,または要介護認定を受けていない要介護相当
•入院前からADLが低下している
•認知症がある
•医療処置(在宅酸素,経管栄養など)が退院後も必要
•家族の介護力に不安がある
•経済的な問題が予想される
こうした要因が1つでもあれば,「退院支援が必要な患者さん」として,早めにチームにつなぐ。
②早期の情報共有
スクリーニングで「退院支援が必要」と判断したら,できるだけ早く,MSWや退院調整看護師に情報を共有する。「医学的な見通し」を伝えるのは,医師にしかできない。あとどのくらいで治療が終わりそうか,退院後にどんな医療的ケアが必要か─この情報が早く共有されるほど,チームは早く動ける。
③家族との早期の対話
退院後の生活を決めるのは,最終的には患者さんと家族だ。だからこそ,早い段階で,家族と退院後の生活について話しはじめることが重要になる。「治ったら帰れますよ」ではなく,「退院後,どんな生活を考えていますか?」と。この対話が早いほど,家族も準備の時間を持てる。
冒頭の研修医のケースで言えば,入院初日に「独居で要介護認定なし」という退院困難要因に気づき,すぐにMSWにつないでいれば,要介護認定の申請も,自宅環境の調整も,もっと早く動き出せたはずだ。
4 カンファレンスを「動かす」のは誰か
退院支援の要となるのが,多職種カンファレンスだ。医師,看護師,MSW,リハビリ,薬剤師など,関わる職種が集まり,患者さんの退院に向けた方針を共有する場である。
ここで,研修医が誤解しがちなことがある。「カンファレンスでは,医師が仕切らなければならない」という思い込みだ。
しかし,退院支援のカンファレンスにおいて,医師は司令塔ではない。むしろ,医師の役割は,正確な医学情報をチームに提供することにある。
「この患者さんの病状は,今こういう状態です」「退院の見通しは,おおよそ○日後です」「退院後も,この医療的ケアが必要です」─こうした医学的な情報を,正確に,わかりやすくチームに伝える。それを土台に,MSWは社会資源を,看護師は療養環境を,リハビリは在宅復帰の可否を,それぞれの専門性で組み立てていく。
医師がやるべきことは,チームを支配することではなく,チームが力を発揮できるよう,正確な情報という土台を提供することだ。
これは,これまでの連載で繰り返し述べてきたテーマと,深くつながっている。第2回では「コーディングは正直さ」,第3回では「検査もまた,誠実さ」,第4回では「分類もまた,誠実さの帰結」と話してきた。
退院支援のカンファレンスにおける医師の役割も,結局は同じだ。正確で誠実な医学情報の提供─それが,チーム医療における医師の誠実さなのだ。