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なぜ,退院支援は「退院が決まってから」では遅いのか?─「入院初日」に医師がやるべきこと[研修医・専攻医のためのDPC超入門(5)]

登録日: 2026.09.01 最終更新日: 2026.09.01

高田史門 (医療法人純徳会田中病院院長)

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「退院支援って,退院が決まってから動くものだと思っていました」

第1回から登場している研修医が,また院長室にやってきた。今回は,少し焦ったような表情だ。

「先生,担当している患者さんのことで,相談がありまして」

聞けば,80歳代の男性。肺炎で入院し,治療は順調に進んで,医学的にはもう退院できる状態だという。ところが─。

「いざ退院,となったら,ご家族から『急に言われても,受け入れの準備ができていない』と言われてしまって。独居の方で,要介護認定もまだ受けていなくて。自宅の環境も整っていない。結局,調整に1週間以上かかりそうなんです」

「医学的にはとっくに退院できるのに,生活の準備が追いついていない,というわけだね」

「はい。退院支援って,退院が決まってから動くものだと思っていました。でも,それじゃ遅いんですね……」

私は頷いた。「いい気づきだ。今日はその話をしよう。なぜ,退院支援は入院初日から始めるべきなのか。そして,それは決して,君1人で背負う仕事ではない,という話だ」

1 なぜ「退院が決まってから」では遅いのか

第1回で,DPCの「階段構造」の話をした。入院が長引くほど,1日当たりの収入は段階的に下がっていく。市中肺炎の例では,入院8日目から点数が約36%下がる,という話だった。退院支援が遅れて入院が長引けば,当然この「階段」を下りていくことになる。経営的にも不利益だ。

しかし,今日強調したいのは,お金の話ではない。退院支援の遅れが生む,最大の問題は別にある。それは,患者さんの「生活」が止まってしまうことだ。

冒頭の80歳代男性を考えてみよう。医学的には退院できるのに,生活の準備が整わないために入院が続く。その間,彼はベッドの上で過ごす。第3回でも触れたように,不要な入院の延長は,廃用症候群,せん妄,院内感染,転倒といったリスクを高める。治療のために入院したはずなのに,入院が続くこと自体が,新たな害を生む。

そして,もう1つ重要なことがある。退院支援には,時間がかかるということだ。

要介護認定の申請から認定まで,通常1カ月程度かかる。介護ベッドや手すりの設置,訪問看護やデイサービスの手配,家族の受け入れ態勢づくり─これらは,一朝一夕にはできない。

だからこそ,「退院できる状態になってから動く」のでは,致命的に遅いのだ。退院できる状態になったときには,既に生活の準備が整っている─その状態をつくるには,入院した,まさにその日から動き始めるしかない。

ここで,少し想像してみてほしい。同じ80歳代男性が,2つの異なる経過をたどったとする。

1人は,入院初日に「独居・要介護認定なし」という状況に気づき,すぐに医療ソーシャルワーカー(MSW)につないだ。要介護認定の申請がすぐに始まり,肺炎の治療と並行して,自宅環境の調整や訪問サービスの手配が進んだ。治療が終わる頃には,生活の受け皿も整っていて,スムーズに自宅へ帰れた。

もう1人は,治療に専念し,退院支援は「治ってから考えればいい」と後回しにした。肺炎は治ったが,そこから要介護認定の申請を始め,認定を待ち,環境を整え……結局,医学的に退院できる状態になってから,さらに2週間以上,ベッドの上で過ごすことになった。その間に足腰は弱り,退院時には入院前より歩けなくなっていた。

同じ患者さん,同じ病気でも,「いつ動き始めたか」だけで,その後の人生が変わりうる。

「治す」ことと「生活に帰す」ことは,同時並行で進めなければならない。これが,退院支援を入院初日から始めるべき,本質的な理由だ。

2 退院支援は「チーム戦」である

ここで,冒頭の研修医が抱えていた,もう1つの誤解について話したい。

彼は「退院支援を,自分1人でなんとかしなければ」と思い込んでいた。要介護認定,自宅環境の調整,家族との話し合い─これらを全部,主治医である自分が背負おうとして,焦っていたのだ。

しかし,ここではっきり言っておきたい。退院支援は,医師1人でやる仕事ではない。チーム戦だ。むしろ,医師が1人で抱え込もうとすることのほうが,患者さんにとって不利益になる。なぜなら,退院支援には,医師では担えない専門性が,いくつも必要だからだ。

退院支援に関わる多職種を,1つずつ見ていこう。それぞれが「何を担い,医師は何を相談すればよいか」を意識しながら読んでほしい。

医療ソーシャルワーカー(MSW)

退院支援の司令塔的な存在だ。患者さんの社会的背景,家庭環境,経済状況をふまえて支援を組み立てる。介護保険の申請,施設の調整,転院先の確保,福祉サービスの導入─これらの社会的・制度的な調整は,MSWの専門領域だ。

研修医にとって心強いのは,MSWが「医療の外側」の世界に精通していることだ。私たち医師は,医学的な治療には詳しくても,介護保険の仕組みや,地域にどんな施設があるか,どんな福祉サービスが使えるか─こうした知識は,正直なところ十分ではない。MSWは,まさにその領域のプロフェッショナルだ。

研修医が「この患者さん,退院後の生活が心配だ」と感じたら,まずMSWに相談する。それが第一歩になる。「独居で身寄りが少ない」「経済的に厳しそう」「自宅に帰るのが難しいかもしれない」─こうした漠然とした不安でも,早めにMSWに伝えることで,具体的な道筋が見えてくる。

退院調整看護師

患者さんの医療的な側面から,必要な医療・社会資源を考える役割だ。「退院後も医療処置が必要か」「訪問看護が必要か」「在宅でどこまでできるか」─こうした医療と生活の橋渡しをする。病棟看護師と地域の橋渡し役でもある。

病棟看護師

患者さんの日常生活動作(ADL)やセルフケア能力を,最も近くで見ている。食事,排泄,移動,内服管理─これらが入院前と比べてどう変化したか。退院後の生活をイメージする上で,病棟看護師の情報は欠かせない。

リハビリ職(PT・OT・ST)

ADLの評価と,在宅復帰に向けた機能訓練を担う。理学療法士(PT)は歩行や移動を,作業療法士(OT)は日常生活動作を,言語聴覚士(ST)は嚥下や言語を評価する。「自宅の階段を上れるか」「トイレまで歩けるか」「食事を安全に飲み込めるか」─退院後の生活を具体的に左右する評価だ。

研修医が見落としがちなのは,「医学的に治った」ことと「自宅で生活できる」ことは別だという点だ。肺炎は治っても,入院中に歩けなくなっていれば,自宅には帰れない。リハビリ職は,その「生活できる体か」を専門的に評価し,必要な訓練を組み立ててくれる。退院の可否を判断する上で,リハビリ職の評価は決定的に重要だ。

薬剤師

退院後の服薬管理を支える。入院中に薬剤が変更されていることは多い。退院後,患者さんや家族が,その薬を正しく管理できるか,お薬カレンダーや一包化が必要か─かかりつけ薬局との連携はこうした調整を担う。

特に高齢者では,多剤併用(ポリファーマシー)が問題になりやすい。退院を機に,本当に必要な薬を見直す─そうした視点でも,薬剤師は頼れる存在だ。

管理栄養士

栄養状態の評価と,退院後の食事指導を行う。特に高齢者では,嚥下機能に応じた食形態の調整や低栄養の改善が,在宅生活の質を大きく左右する。「自宅でどんな食事を用意すればいいか」を,患者さんや家族に具体的に指導してくれる。

これだけの専門職が,それぞれの視点から,1人の患者さんの退院を支えている(図1)。

冒頭の研修医に,私はこう伝えた。「君がやるべきは,全部を1人で背負うことじゃない。早い段階で『この患者さんは退院支援が必要だ』と気づいて,チームにつなぐことだ。それが,医師に求められる最も大切な役割だよ」


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