5 明日からできること─病名の解像度を上げる
では,若手医師として,明日から何ができるか。
私が勧めたいのは,「病名の解像度を上げる」という習慣だ。「肺炎」と書く前に,以下の4つの問いに自分で答えてみてほしい(表3)。

この4つを意識するだけで,カルテ記載の質が大きく変わる。漫然と「肺炎」と書くのではなく,病名の解像度を上げて書く習慣が身につく。
そして,これは決して「DPCのため」だけの習慣ではない。より良い医療を提供するための習慣でもある。誤嚥性肺炎と認識して書けば,嚥下リハビリの依頼が出る。A-DROPスコアを書けば,重症度に応じた管理ができる。副傷病を書けば,それらを見落とさずに治療できる。
カルテ記載の解像度を上げることは,医療の解像度を上げることでもあるのだ。
冒頭の研修医は,その後,退院サマリーを書き直した。
主病名:市中肺炎(A-DROP 2点,中等症)
副傷病名:高血圧,骨粗鬆症
「先生,これでどうでしょうか?」
私は深く頷いた。「うん,いい記載だ。これなら,診療情報管理士も正確にコーディングできるし,次にこの患者さんを診る医療者にも状態がしっかり伝わる」
「カルテに書く一文って,こんなに意味があるんですね」
研修医はそう呟いて,書き直したサマリーを持ち帰っていった。
「次の機会にね」と私は研修医の背中に声をかけた。「もう1つ,若手医師がやりがちな『うっかり』の話をしよう。毎日の採血だ。検査を出すたびに,君は何を考えているかな?」
研修医は振り返って,少し困ったような顔をした。その表情こそ,次回への入り口だ。
院長のホワイトボード─今日のTake Home Message
▶ DPCでは,病名は「臨床的なラベル」であると同時に,「14桁コードへの分類キー」でもある
▶ 市中肺炎(040080)と誤嚥性肺炎(040081)は,DPC上は別コードで,入院期間の設計も異なる
▶ 1日当たりの点数差はわずかだが,入院期間の設計に疾患の臨床実態が織り込まれている
▶ カルテに「肺炎」とだけ書くと,適切なコードに分類されず,医療資源投入の実態が反映されない
▶ コーディングは「正直さ」が原則。実態より重く書くも,軽く書くも,いずれも不適切
▶ 病名を書くときは,肺炎の種類・誤嚥のリスク・重症度・副傷病まで含めて「解像度を上げる」
次回予告
第3回「なぜ,毎日の採血が病院を赤字にするのか?」─研修医がやりがちな「とりあえず毎日採血」。その習慣の裏に,DPC時代の病院経営とEBMが交差する,もう1つの真実がある。次回お届けします。
【参考資料】
▶ 厚生労働省:令和8年度診療報酬改定について. DPC/PDPS関連告示・通知.
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html
▶ 日本呼吸器学会成人肺炎診療ガイドライン2024作成委員会, 編:成人肺炎診療ガイドライン2024. メディカルレビュー社, 2024.
https://www.jrs.or.jp/publication/file/adult_pneumonia_2024v5.pdf