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なぜ,カルテに「肺炎」とだけ書いてはいけないのか?─病名の「解像度」が医療の質を決める[研修医・専攻医のためのDPC超入門(2)]

登録日: 2026.08.11 最終更新日: 2026.08.24

高田史門 (医療法人純徳会田中病院院長)

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3 カルテ記載が病院の収入を変える

さて,ここで重要な話に入る。

仮に,80歳代の患者さんが入院した。実は経過をよく聞くと,認知症で嚥下機能も低下しており,誤嚥が原因の肺炎だった。しかし,カルテに「肺炎」とだけ書かれていたら,どうなるか。

診療情報管理士は,カルテに書かれた情報からコードを決める。「肺炎」とだけ書かれていて,誤嚥や嚥下機能低下の記載がなければ,市中肺炎(040080)としてコードされる可能性が高い。本来は誤嚥性肺炎(040081)であるべきなのに,だ。

これが収入にどう影響するか,同じ患者さんが15日間入院したケースでシミュレーションしてみよう(表2)。

「あれ,先生」と研修医が言った。「これ,『誤嚥性肺炎』と正しく書いたほうが,病院の収入が少し多いんですね。でも,差は1万5000円ほどで,思ったほど大きくないというか……」

「いいところに気がついたね」と私は微笑んだ。「この『大きくない差』こそが,実は重要なポイントなんだ。コーディングの重要性について話そう」

4 コーディングは「正直さ」が原則

DPCのコーディングには,はっきりとした原則がある。

実態に即した,正確な記載をすること。これは,医療の根本に関わる話だ。

「点数が高くなるから」という理由で,実態と違うコードを意図的に選ぶ─これは実態より重く書くことに当たり,診療報酬の不正請求に当たる可能性がある。発覚すれば,診療報酬の返還,ペナルティとしての減算,悪質な場合は保険医療機関の指定取消や保険医登録の取消といった処分の対象にもなりうる。病院全体の信用にも関わる,きわめて重大な問題だ。

一方で,実態より軽く書くこと─これも問題だ。たとえば,誤嚥性肺炎の患者さんなのに「肺炎」とだけ書いて,市中肺炎としてコードされてしまったら,医療資源投入の実態と病院の請求実態がずれてくる。

そして,もっと大事なことがある。カルテに「誤嚥性肺炎」と書かないということは,医療チーム全体に「誤嚥性肺炎の患者」だと伝わらない,ということだ。

誤嚥性肺炎の患者さんには,抗菌薬治療だけでなく,嚥下評価,口腔ケア,嚥下リハビリ,栄養管理,家族指導といった,市中肺炎とはまったく違う介入が必要になる。それらをきちんと行うためには,まずカルテに「誤嚥性肺炎」と正しく書くことから始まる。

カルテ記載は,DPCコーディングだけの話ではない。医療の質そのものに関わるのだ。

先ほど見たように,市中肺炎と誤嚥性肺炎で,1日当たりの点数差はわずかだ。金額の差を狙って病名を書き換える動機など,最初から成立しないような構造になっている。これは,DPC制度の設計者が「金額ではなく,適切な分類と適切な医療資源投入を促す」という方向で点数を組んでいることの表れだ。

正しい姿勢は,シンプルだ。書くべきことを,正確に,過不足なく書く。市中肺炎なら市中肺炎,誤嚥性肺炎なら誤嚥性肺炎,と臨床判断に基づいてカルテに残す。それが,DPC時代の臨床医に求められる,誠実さなのだ。


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