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なぜ,病院は退院を急ぐのか?─医療のサブスクリプションと入院期間の階段構造[研修医・専攻医のためのDPC超入門(1)]

登録日: 2026.08.04 最終更新日: 2026.08.04

高田史門 (医療法人純徳会田中病院院長)

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「先生,〇〇さん,そろそろ退院調整をお願いします」

ある日,私の病院の研修医が,診察室に駆け込んできた。

「先生,ちょっといいですか。指導医の先生から,『〇〇さん,そろそろ退院調整しておいて』って言われたんです。でも,まだ少し痰絡みも残ってるし,解熱して2日しか経ってないんですよ。CRPだってまだ完全に正常値じゃない。早すぎる気がして……」

担当している患者は,80歳代の女性。市中肺炎で入院し,抗菌薬の投与で順調に解熱,食事摂取量も戻ってきている。ADLは入院前と変わらず,自宅退院も問題なさそうだ。

「指導医の先生は,なんておっしゃってた?」と私は聞いた。

「『DPC的にもそろそろだから』って」

「DPC的に,ね」

研修医は少し困ったような顔をした。「そのDPCというのが,よくわからないんです。教科書には診断群分類別包括評価としか書いてなくて。でも,なぜそれが退院のタイミングと関係するんでしょうか?」

これは,若い医師の多くが一度はぶつかる問いだろう。指導医や上級医から「そろそろ退院を」と促され,釈然としないまま退院サマリーを書く─そんな経験をしたことがある方も,少なくないはずだ。

この連載では,研修医や専攻医のみなさんが日常の臨床で感じる,こうした「なぜ?」に答えていきたい。第1回のテーマは,「なぜ,病院は退院を急ぐのか?」。その答えの中心に,DPCという仕組みがある。

1 DPCとは何か─病院は「日数」でお金をもらう

診断群分類別包括評価(Diagnosis Procedure Combination:DPC)とは,ごく簡単に言えば,「病気の種類ごとに,1日当たりの入院費が決まっている」という支払い制度のことだ。2003年から段階的に導入され,現在は全国の急性期病院の大半が採用している。

それまでの「出来高払い」では,検査や処置や投薬を行うたびに,その分の点数が積み上がって病院の収入になっていた。点滴を1本追加すれば,その分が請求できる。CTを撮れば,その分が加算される─いわば,動画を見るたびに課金される,都度課金型のレンタル方式に似ている。

DPCは違う。検査も,処置も,投薬も,その大部分が「包括」に含まれる。つまり,やってもやらなくても,1日当たりの収入は変わらない。

イメージとしては,定額制のサブスクリプションサービスに近い。Netflixのような動画配信サービスを思い浮かべてほしい。ユーザーから入ってくる月額料金は定額だが,ユーザーがコンテンツを見れば見るほど,サービス側は版権料や配信コストがかさんでいく。ヘビーユーザーばかりだと,サービス側は赤字になる。

病院も同じだ。DPCの下では,1日当たりの収入は決まっている。一方で,検査をすればその分の試薬や人件費がかかる。CTを撮れば造影剤やフィルム代がかかる。点滴1本にも薬剤費がかかる。つまり,過剰な検査や処置をすればするほど,コストばかりが膨らみ,病院の収支は悪化する。手術や1000点以上の処置など,一部の医療行為だけは「出来高」として別途請求できるが,それ以外の日常的な診療行為は,ほとんどが包括の中に入っている。

ということは,病院側にとっては,過剰な検査は経営的にマイナスでしかない。逆に言えば,EBM(evidence-based medicine)に基づいて不要な検査を減らせば,収入は変わらないままコストだけが減り,経営にプラスになる。ここがまず,DPCの基本中の基本だ。

「では,病院はどうやって収益を上げるんですか?」と研修医が聞いた。

「いい質問だ。答えは─入院日数と,その1日当たりの単価にある。ここに,DPCの面白い,そして時に厳しい仕組みがある」

2 「階段構造」─入院期間Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ

DPCのもう1つの特徴は,1日当たりの点数が,入院期間によって変わることだ。

入院期間は,3つの段階にわけられている。

・入院期間Ⅰ:入院初期。点数が最も高い

・入院期間Ⅱ:標準的な在院日数の当たり。点数は中程度

・入院期間Ⅲ:それを超えた長期入院。点数は大きく下がる

そしてさらに先,入院期間Ⅲを超えると,DPC包括ではなく,出来高算定に切り替わる。

実際の数字を見てみよう。先ほどの「80歳代女性の市中肺炎」,DPCコードでは「肺炎等(市中肺炎かつ75歳以上,手術なし・処置等2なし)」に分類される。ここでの点数設定は,令和8年度診療報酬改定版表1のようになっている。

1点は10円に相当するので,入院初日から7日目までは1日当たり3万4580円,8日目から13日目までは2万2220円,14日目以降は1万8880円となる。

入院期間Ⅰから期間Ⅱに移ると,1日当たりの収入が約36%も下がる(図1)。これは,決して小さな差ではない。

「なぜ,こんな階段構造になっているんですか?」と研修医が聞く。

「これは,医療資源を効率的に使うためのインセンティブ設計なんだ。一般に,入院初期は検査や治療が集中して,医療資源を多く使う。だから初期は高く設定されている。逆に,病状が落ち着いた後の長期入院は,医療資源の投入は少ないはずだから,点数も下がる─という考え方だ」

「早く治して,早く退院させる病院ほど,医療資源当たりの効率が良くなる。それを評価するのが,この階段構造なんだ」


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