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FOCUS:PCI周術期における抗血栓薬処方戦略

登録日: 2026.07.31 最終更新日: 2026.07.31

田邉健吾 (三井記念病院循環器内科部長)

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三井記念病院循環器内科部長
田邉健吾
1995年名古屋大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院内科研修医,三井記念病院,オランダ・エラスムス大学を経て,2013年より現職。専門は,経皮的冠動脈インターベンション(PCI),経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI),CTによる心臓評価,非心臓手術時の循環器管理など。“患者さんが自分の大切な人だったら”と思いながら診療にあたっている。
私が伝えたいこと
◉経皮的冠動脈インターベンション(PCI)周術期の抗血栓療法を考えるにあたり,冠動脈ステントの進化と抗血小板薬開発の歴史を理解しておく必要がある。
◉ステント血栓症は発症すると予後不良であり,回避すべき重要なイベントであるが,ステントの進化により発生率は大きく低下しており,抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)期間短縮の流れが生まれている。
◉抗血小板薬には海外と用量が異なるものがあり,エビデンスの解釈には注意を要する。
◉PCI施行後の心血管イベントは減少している一方,抗血栓療法による出血リスクへの配慮が重要であり,高出血リスク(HBR)の概念を理解し治療方針に反映させる必要がある。
◉『冠動脈疾患患者における抗血栓療法』に基づき,抗血小板薬の投与を実践する。

❶ PCIデバイスの歴史的背景:再狭窄との闘い

経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention:PCI)周術期における抗血栓薬について理解するにあたり,PCIデバイスの歴史を把握しておくことは重要である。1977年に欧州で初めてヒトへのPCIが施行された。当時は冠動脈を拡張するデバイスはバルーンのみであり,経皮的古典的バルーン血管形成術(percutaneous old balloon angioplasty:POBA)と呼称された。POBA時代には,PCI後24時間以内の急性冠閉塞の頻度は5~10%と高く,心筋梗塞の発症や緊急冠動脈バイパス術を要する症例もしばしば認められ,当時の大きな問題となっていた。さらに,急性期を無事に乗り越えたあとも,6カ月程度までに30~50%で再狭窄を生じるなど,慢性期における問題も早期から明らかとなった。

このような時代背景の中,1986年に登場したのが金属ステント(bare metal stent:BMS)である。ステントの使用により,急性期の手技成功率は格段に向上した。さらに,ステントはPOBAと比較して再狭窄を有意に抑制することが,1994年のSTRESS試験およびBENESTENT試験1)2)において証明され,カテーテル治療は一気にステント時代へと移行した。一方,ステントの登場によりPCIの急性期安全性は大きく向上したものの,次なる問題として,ステント内再狭窄(in-stent restenosis:ISR)が出現した。ISRは,ステント内に新生内膜が増殖・占拠する病態であり,当時はPCIのアキレス腱と表現されることも多かった。実際,ステント留置後,半年程度で20~30%にISRが発生するためである。

これを克服する目的で開発されたのが薬剤溶出性ステント(drug-eluting stent:DES)であり,再狭窄を抑制する薬剤をステント表面に塗布したものである。第1世代DESは,大規模臨床試験においてBMSと比較して再狭窄を著明に抑制することが示された。現在使用されているDESでは再狭窄率は5%弱程度まで低下しており,PCI黎明期から続いてきた再狭窄との闘いは,臨床的にはある程度許容される水準にまで到達したと言える(図1)。

再狭窄率の改善と現在の到達点
BMS時代の再狭窄率は20~30%程度であったが,現在使用されているDESでは5%弱程度まで改善している。しかし,再狭窄率は病変や患者背景によって異なり,糖尿病患者や透析患者では依然として高率であることが知られている。

❷ 血栓症との闘い

PCIにおけるもう1つの重要な課題は,ステント血栓症である。BMSが導入された当初,STRESS試験およびBENESTENT試験において,ステント留置後2週間以内に発生する亜急性ステント血栓症(subacute thrombosis:SAT)が約3.5%に認められていた。その後,Colomboらは,高圧拡張によりステントを十分に拡張することで,SATを軽減しうることを示した3)

さらに,1998年のSTARS試験では,アスピリン単剤,アスピリン+ワルファリン,アスピリン+チクロピジン群の3群が比較され,1カ月以内の主要評価項目の累積発生率はそれぞれ3.6%,2.7%,0.5%であった(図24)。この結果から,ステント留置後には,アスピリン+チエノピリジン系抗血小板薬の2剤併用,すなわち抗血小板薬2剤併用療法(dual antiplatelet therapy:DAPT)が標準治療として定着した。

ステント血栓症はなぜ致命的か
高度狭窄に対してPCIを施行した血管にステント血栓症が生じると,血管は急性閉塞に近い状態となり,心筋梗塞を発症して致命的となることがある。つまり,PCI前よりも状態が悪化しうるため,ステント血栓症は回避すべき重要な合併症と考えられている。

一方で,第1世代DESは再狭窄を大幅に減少させたものの,新たな問題も明らかとなった。すなわち,留置後1カ月以降に発生する遅発性ステント血栓症,および1年以降に発症する超遅発性ステント血栓症5)である。その要因として,薬剤による内皮細胞再生の遅延や,ポリマー残存による異物反応などが考えられている。さらに,抗血小板療法の早期中断が重要な予測因子であることが示されたため(図36),DAPTは1年間継続するという治療戦略が一般化した。なお,BMS時代からステント血栓症の頻度自体は1%前後と決して高頻度ではない(図4)。それにもかかわらず本症が問題となるのは,報告によっては死亡率が7~48%と非常に高いためである(表17)~9)

第1世代DESの落とし穴
第1世代DESであるCypherTMやTAXUSTMは,再狭窄を大きく減少させた一方で,DAPTを早期に1剤へ減量するとステント血栓症リスクが高まることが問題となった。このためDAPT期間は長期化し,出血性イベントの増加につながった。こうした課題を改善する目的で開発されたのが新世代DESである。
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