
❶ そもそも発熱とは
「熱が出た」「熱がある」「熱っぽい」……これらは,日常診療で非常に多く出合う訴えです。しかし,これはあくまで患者の主観的な訴えであり,客観的な尺度として体温を測定することになります。
実は,体温何℃から発熱と判断するのか,という基準は結構あいまいです。そもそも,普段の体温はある程度の個人差があり,平熱が35℃台という人もいれば,36℃台後半という人もいます。年齢の影響もあり,小児は平熱が高め,高齢者は低めになります。1日の中でも体温は変動し,朝よりも夜のほうが体温は高めになります。体温は測定する部位によっても異なり,腋窩で測定すると直腸や口腔で測定するよりも低くなります1)。『ハリソン内科学』を参照してみると,発熱を「口腔体温で朝6時に>37.2℃,午後に>37.7℃」と定義しています2)。一方で,法律ではどうかというと,感染症法では体温が37.5℃以上を呈した状態を発熱と定義しています3)。結局のところ,発熱における絶対的な体温の基準値というものは存在しないのです。
また,ステロイドや免疫抑制薬を使用していたり,維持透析中,コントロール不良の糖尿病など,いわゆる免疫不全者では感染症に罹患しても体温が上昇しにくくなるため,体温だけで病的な発熱や炎症の有無を判断するのは困難です。体温だけで判断が難しい場合は,炎症マーカーであるCRPが参考になります。たとえ体温が平熱や微熱であっても,CRPの上昇があれば,体内のどこかで炎症が生じていることを意味します。「火のない所に煙は立たぬ」ということわざがありますが,CRP上昇という「煙」が存在するということは,体内で炎症という「火」がある,ということです。そのような場合は,体温が平熱であっても病的な発熱と同じようにとらえて,さらなる原因の追究を検討すべきです。
Pitfall
免疫不全者の炎症
ステロイド・免疫抑制薬を使用している免疫不全者では,体内で病的な炎症が生じても,平熱や微熱程度にとどまることがある。
❷ 発熱を3段階に分類する
一言で発熱と言っても,発熱がどれくらい続いているか,どこまで原因検索を行ったかによって考えることがかなり違ってきます。そこで,本稿では発熱を「急性の発熱」「長引く発熱」「不明熱」の3つの段階にわけて考えていきます。
「急性の発熱」は発熱が始まってから2~3週間以内の時期のものを指します。原因のほとんどを感染症が占めています。続いて,「長引く発熱」は発熱が2~3週間以上続いているものを指します。急性の発熱の時期を過ぎて,発熱が長引いている状態です。長引く発熱では感染症以外にも自己免疫疾患や悪性腫瘍など,様々な原因を考える必要があります。最後に,「不明熱」は一通りの評価を行っても原因がわからない長引く発熱を指します(図1)。

本稿では,それぞれの段階において重要なポイントや疾患を解説することで,発熱診療の全体像をつかむことを目標としました。もっと詳しく勉強したいという方は,ぜひ成書1)4)や総説5)をご参照下さい。なお,発熱の原因は内科的なものだけではありません。たとえば,熱中症でも体温上昇がみられます。また,外傷によって組織が傷つくことでも,修復反応としての炎症が生じて発熱がみられます。本稿では,そのような外因性の要因による発熱については触れず,主に内科的な要因による発熱を扱います。
❸ 発熱の原因
発熱という症状そのものは,体内で何か病的なイベントが起きているということを示しており,多くの場合は体内のどこかで炎症が生じています。CRP高値も,体内のどこかで炎症が生じていることを示しています。しかし,発熱やCRP値だけをみていても,体内のどこで,どのような異常が生じているのかまではわかりません。発熱の原因を考えるにあたっては,発熱以外の症状や身体所見といった情報が重要な手がかりになります。問診や身体診察といった基礎的な情報をしっかり集めることで原因を絞り込み,的確な検査を行うことで原因を突き止める,というのが基本的な流れになります。
Point
発熱の原因検索
発熱以外の症状や身体所見といった情報が,原因同定の重要な手がかりになる。
発熱の原因は,大きく感染症とそれ以外(非感染症)にわけることができます。頻度としては感染症が圧倒的に多いため,まずは感染症の可能性から考えます。感染症以外(非感染症)の疾患・病態による発熱に関しては,その原因は多岐にわたります。ひとまずは,大まかに①自己免疫疾患,②悪性腫瘍,③その他とわけておきましょう。③その他には,薬剤熱や内分泌疾患,血液疾患などが含まれます(図2)。


❹ 急性の発熱の考え方
日本は医療機関へのアクセスが良好ですので,ほとんどの場合で発熱から2~3週間以内,すなわち「急性の発熱」の段階で,どこかの医療機関を受診すると思われます。急性の発熱では,感染症が原因であることが多いため,まずは感染症の可能性から考えます。急性の発熱で最も多い原因は風邪をはじめとしたウイルス感染症ですが,それ以外の重症化する可能性がある細菌感染症や,命の危険が差しせまっている敗血症を見逃さないことが大切です。
風邪(感冒)とは「自然に良くなるウイルス性の上気道を中心とした感染症」を指します。そして,①のど,②鼻,③下気道の3症状,すなわち咽頭痛,鼻汁・鼻閉,咳・痰がほぼ同時に出現するのが典型的です6)。これらの症状がない発熱では,風邪ではない可能性を考えます。また,インフルエンザや新型コロナウイルス感染症,急性胃腸炎といったウイルス感染症が流行している時期では,これらの感染症の可能性を考慮します。
感染症による臨床像の原則として,ウイルスが感染すると複数の部位や臓器にわたって症状を起こすのに対して,細菌が感染するのは原則として単一の臓器とされています(例外あり)6)。そのような感染した部位や臓器を感染フォーカスと呼んだりします。急性の発熱においては,重症化する危険性がある細菌感染症を見逃したくないので,感染フォーカスを示唆する症状や身体所見がないかを注意深く評価します。そして,疑われる感染フォーカスに応じて,様々な検査での評価に進んでいきます。
また,悪寒戦慄(布団をかぶってもブルブル震える)がある場合や,免疫不全,人工物留置がある場合には菌血症のリスクがあるので,血液培養を積極的に考慮します。意識や呼吸・循環といったバイタルサインに異常がみられる場合は,敗血症によって重篤な臓器障害に至っている可能性があります。生命の危機がせまっている状態であり,早急な対応が必要です。
Point
急性の発熱
急性の発熱では,まずは感染症の可能性から考える。特に,細菌感染症や敗血症を見逃さないように注意する。
❺ 長引く発熱の考え方
多くのself-limitedな(自然軽快するような)感染症は,2~3週間以内に改善します。風邪や急性胃腸炎も,通常はこの期間内に改善します。また,発熱の急性期で見逃したくない重篤な疾患も,急性期を過ぎて診断されることは少なくなってきます。急性期を過ぎても発熱が続いているような場合には,一般に感染症の可能性が下がり,非感染症の可能性も考え始めます。しかし,長引く発熱の診療においては,発熱が長引くような一部の感染症や,急性期に診断が見逃されがちな感染症を見逃さないことが重要です。したがって,急性期を過ぎた「長引く発熱」であっても,まずは感染症の可能性から検討します。
