神経免疫疾患の診療は,この10年で劇的に変化しています。多発性硬化症(MS)や視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD),自己免疫性脳炎,重症筋無力症,慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)など,多くの疾患で病態理解が進み,分子標的治療薬が次々と登場しています。一方で,若手医師にとっては,「どの薬を使うか」だけでなく,「なぜその薬が効くのか」を理解することが,ますます重要になっています。本書『免疫学から説きおこす 最新神経疾患の診療』は,まさにその問いに真正面から向き合った一冊です。
本書の最大の魅力は,単なる治療マニュアルというわけではなく,免疫学の基本から神経疾患の病態へと橋を架け,「病態」と「治療」を一本のストーリーとして理解できる点にあります。T細胞,B細胞,補体,microRNA,脳腸相関,腸内細菌叢など,現代神経免疫学を語る上で欠かせないキーワードが,最新知見をふまえて非常にわかりやすく整理されています。
さらに,本書には「サイエンスの面白さ」が詰まっています。たとえば,自己抗体がどのように神経障害を引き起こすのか,なぜある患者では再発を繰り返すのか,あるいは免疫細胞と中枢神経,腸内環境がどのようにつながっているのか─。診療で日々遭遇する現象の背後に,精緻でダイナミックな免疫ネットワークが存在することを実感させてくれます。疾患を「暗記」でとらえるのではなく,「機序」で理解する姿勢を自然に養ってくれる点も,本書ならではの魅力でしょう。
また,early high efficacy therapy,CAR-T細胞療法,BTK阻害薬,補体阻害薬など,今後の神経免疫診療を大きく変える可能性のある新規治療についても丁寧に解説されており,研究と臨床の距離の近さを感じさせます。診療の最前線に立つ専門医だけでなく,これから神経内科を志す研修医・専攻医,さらには基礎研究に関心を持つ若手医師にとっても,大きな刺激となる内容です。
本書を読むと,神経免疫疾患は単なる「難しい病気」ではなく,「人体の免疫システムが織りなす知のフロンティア」であることに気づかされます。日常診療の中にある疑問が,最先端サイエンスへとつながっていく感覚を,ぜひ多くの読者に味わって頂きたいと思います。
