免疫学から説きおこす 最新神経疾患の診療
「神経免疫学」を「脳神経内科臨床」に活用するための実践書
目次
第1章 免疫学から神経疾患の病態を考える
Introduction
免疫学の視点で眺めた神経疾患
総 論
現代の脳神経内科「診療」に求められる免疫学の基本
各 論
1 T細胞から理解する神経炎症
2 B細胞の多様性から理解する神経炎症
3 補体から理解する神経炎症
4 神経炎症病態におけるmicroRNAの意義
5 脳腸相関から理解する神経炎症
6 腸内細菌叢の偏倚から理解する神経免疫疾患
第2章 免疫学から神経疾患の臨床を考える
Introduction
免疫病態に基づく免疫性神経疾患の治療原則
総 論
神経免疫学の理解と治療の進歩
各 論
1 B細胞標的治療の作用機序と適用
2 スフィンゴシン1-リン酸受容体作動薬の機序と適用
3 ナタリズマブの作用機序と適用
4 多発性硬化症の予後を予測する免疫バイオマーカー
5 免疫学による多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害の理解
6 自己免疫性グリア線維性酸性タンパクアストロサイトパチーの理解
7 自己免疫性小脳失調症の病態と診断
8 神経変性疾患の炎症病態と新規治療の可能性
9 重症筋無力症・ランバート・イートン筋無力症候群の病態と治療
10 抗MuSK抗体陽性重症筋無力症の病態
11 ニューロパチーと自己免疫
12 スティッフパーソン症候群の病態
第3章
免疫性神経疾患の治療トピック
1 多発性硬化症に対する早期high efficacy therapy
2 視神経脊髄炎スペクトラム障害の分子標的治療
3 重症筋無力症の分子標的薬
4 慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー治療の動向
5 POEMS症候群の治療
6 血液浄化療法 作用機序と有効例の見きわめ
Introduction
免疫学の視点で眺めた神経疾患
総 論
現代の脳神経内科「診療」に求められる免疫学の基本
各 論
1 T細胞から理解する神経炎症
2 B細胞の多様性から理解する神経炎症
3 補体から理解する神経炎症
4 神経炎症病態におけるmicroRNAの意義
5 脳腸相関から理解する神経炎症
6 腸内細菌叢の偏倚から理解する神経免疫疾患
第2章 免疫学から神経疾患の臨床を考える
Introduction
免疫病態に基づく免疫性神経疾患の治療原則
総 論
神経免疫学の理解と治療の進歩
各 論
1 B細胞標的治療の作用機序と適用
2 スフィンゴシン1-リン酸受容体作動薬の機序と適用
3 ナタリズマブの作用機序と適用
4 多発性硬化症の予後を予測する免疫バイオマーカー
5 免疫学による多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害の理解
6 自己免疫性グリア線維性酸性タンパクアストロサイトパチーの理解
7 自己免疫性小脳失調症の病態と診断
8 神経変性疾患の炎症病態と新規治療の可能性
9 重症筋無力症・ランバート・イートン筋無力症候群の病態と治療
10 抗MuSK抗体陽性重症筋無力症の病態
11 ニューロパチーと自己免疫
12 スティッフパーソン症候群の病態
第3章
免疫性神経疾患の治療トピック
1 多発性硬化症に対する早期high efficacy therapy
2 視神経脊髄炎スペクトラム障害の分子標的治療
3 重症筋無力症の分子標的薬
4 慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー治療の動向
5 POEMS症候群の治療
6 血液浄化療法 作用機序と有効例の見きわめ
序文
脳神経内科医としてのキャリアの中で,この20年間は画期的な薬剤の開発や重要な基盤研究に関われた,幸福な時代であったと感じています。
私が医師になった1980年当時,パーキンソン病に対してL-DOPAは処方できたものの,脳MRI画像もまだ利用できず,免疫性神経疾患の臨床は文字通り手探りでした。経口ステロイドは処方されることもありましたが,パルス治療は潜在的リスクが強調されて,国内で使っている施設はなかったと思います。当時の患者さんやご家族が,どれほど苦労をしておられたか。現代の,薬剤で上手くコントロールされた患者さんしか診ておられない若い先生方には,想像を絶するものではないかと思います。
21世紀に入ると,多発性硬化症の治療薬インターフェロン製剤が認可されました。皆が大騒ぎをしていたのは数年間ほどで,その後新しい薬が次々に現れて,医療レベル向上の潮流は誰の目にも明らかになりました。治療薬の開発には,正しい病態モデルとそれに基づく合理的戦略が求められますが,多発性硬化症や視神経脊髄炎スペクトラム障害の領域では,戦略的な薬剤開発がかなり上手くいったのです。今では,その次の段階として,多くの薬剤の中でどれを使うのか,いかにすれば完全な寛解が得られるのかなど,治療の到達目標はより高いところに設定されてきています。
脳神経内科の医療は様々な学問の基盤の上に成立していますが,免疫学はその中でも特に重要になってきました。免疫性神経疾患の薬剤を使いこなすには,ある程度の免疫の知識がないと難しいということもありますが,もっと本質的な意味において,脳神経内科の病気と免疫系の関連は強く,脳神経内科も膠原病内科やアレルギー科のように「免疫内科」としての側面を強くしていかないと,もはや立ち行かなくなる可能性があるのではないかとさえ考えています。
情報が氾濫する現代にあって,医師は何を咀嚼して自家薬籠中の物にし,何をITあるいはAIに頼るべきか。このような問題が活発に議論されているようです。優秀な脳神経内科医であってもすべてを記憶できないほどの情報が溢れている中で,臨床医としての能力を発揮するための基本骨格は何でしょうか? あまり指摘されてないようですが,私は「神経免疫学(Neuroimmunology)」の基本を身につけることだと考えています。免疫医療のセンスを身につけることによって,診療や研究に必ずや深みが出てくるでしょう。
本書は,神経疾患の診療の基礎を免疫学から説きおこすという建て付けになっています。編著者の思いを伝えるために,第1章,第2章の冒頭には基礎・臨床それぞれの専門家との対談形式でIntroductionを設けました。読者の皆さんには,医学参考書として,あるいは現在の免疫性神経疾患診療の動向を知るための一助として,本書を活用して頂ければ幸いです。
2026年2月
国立精神・神経医療研究センター神経研究所免疫研究部 部長
山村 隆
私が医師になった1980年当時,パーキンソン病に対してL-DOPAは処方できたものの,脳MRI画像もまだ利用できず,免疫性神経疾患の臨床は文字通り手探りでした。経口ステロイドは処方されることもありましたが,パルス治療は潜在的リスクが強調されて,国内で使っている施設はなかったと思います。当時の患者さんやご家族が,どれほど苦労をしておられたか。現代の,薬剤で上手くコントロールされた患者さんしか診ておられない若い先生方には,想像を絶するものではないかと思います。
21世紀に入ると,多発性硬化症の治療薬インターフェロン製剤が認可されました。皆が大騒ぎをしていたのは数年間ほどで,その後新しい薬が次々に現れて,医療レベル向上の潮流は誰の目にも明らかになりました。治療薬の開発には,正しい病態モデルとそれに基づく合理的戦略が求められますが,多発性硬化症や視神経脊髄炎スペクトラム障害の領域では,戦略的な薬剤開発がかなり上手くいったのです。今では,その次の段階として,多くの薬剤の中でどれを使うのか,いかにすれば完全な寛解が得られるのかなど,治療の到達目標はより高いところに設定されてきています。
脳神経内科の医療は様々な学問の基盤の上に成立していますが,免疫学はその中でも特に重要になってきました。免疫性神経疾患の薬剤を使いこなすには,ある程度の免疫の知識がないと難しいということもありますが,もっと本質的な意味において,脳神経内科の病気と免疫系の関連は強く,脳神経内科も膠原病内科やアレルギー科のように「免疫内科」としての側面を強くしていかないと,もはや立ち行かなくなる可能性があるのではないかとさえ考えています。
情報が氾濫する現代にあって,医師は何を咀嚼して自家薬籠中の物にし,何をITあるいはAIに頼るべきか。このような問題が活発に議論されているようです。優秀な脳神経内科医であってもすべてを記憶できないほどの情報が溢れている中で,臨床医としての能力を発揮するための基本骨格は何でしょうか? あまり指摘されてないようですが,私は「神経免疫学(Neuroimmunology)」の基本を身につけることだと考えています。免疫医療のセンスを身につけることによって,診療や研究に必ずや深みが出てくるでしょう。
本書は,神経疾患の診療の基礎を免疫学から説きおこすという建て付けになっています。編著者の思いを伝えるために,第1章,第2章の冒頭には基礎・臨床それぞれの専門家との対談形式でIntroductionを設けました。読者の皆さんには,医学参考書として,あるいは現在の免疫性神経疾患診療の動向を知るための一助として,本書を活用して頂ければ幸いです。
2026年2月
国立精神・神経医療研究センター神経研究所免疫研究部 部長
山村 隆